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異世界はつらいよ~転生勇者放浪記~  作者: 花京
第七章 人魔決戦編
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第五話 リ・エスティーネ王国はつらいよ⑥

 黒いマナの漂う空間を走り続けた寅二郎たちだったが、


「見えたぞ」ついに辿り着いたのだ、大魔王ノクスの前に。


「来たか」そう声を上げたのは大魔王ノクス。


 玉座に肘をつき、顎を手に載せている。

 その額と頭には三本の角。

 年の頃は初老を思わせる皺が寄り、

 目は黒く、

 その金色の瞳孔がこちらの心の底まで見透かすような気にさせる。

 赤黒い瘴気を全身から漂わせ、

 その圧は見ている者に息苦しさを覚えさせた。


「あなたが魔王ノクスね!」アンナの声で皆が構える。


 一触即発の雰囲気にも、ノクスは余裕を崩さない。


「いかにも、我が大魔王ノクス。よく来た、女神の駒」


「女神の駒、ですって?」アンナの剣を握る手に力がこもる。


「貴様ら、この世界をどれほど知っている?」


 ノクスの問いに、リルルが叫ぶ。


「時間稼ぎなんてさせない!《ファイア・アロー》!」

 リルルの放った炎の矢を、左手に纏わせた氷で振り払うノクス。


「まぁ聞け。貴様らは正のマナ、我らは負のマナより生まれた存在」


 じりじりと、横へ体をずらし始めたヤスコの前に土の壁が。

(動きが読まれた?)ヤスコはノクスを睨む。


「我らは貴様ら正のマナが揺らぎ生まれるのだ」


「貴様らが襲ってくるのが悪いのだろうが!」

 アリアが盾を構え突進するが、突風に押し戻される。


「それもあるな。だが、何故襲うのか、それを考えたことはあるか?」


「襲う理由?確か召喚された際、

 “この世界を負で満たさんとする”と聞きました」

 ユキナは詠唱しようとしていた手を止めた。


「そうだ。ではなぜ“負で満たしたい”のか」


「なぜなの?」アンナは聞かずにはいられなくなっていた。


「それはな。この世界が間違っておるからよ」

「間違っている?」

「負が生まれるのを嫌い、正が負を滅ぼす。

 これを間違っていると言わず何と言うのか」

「だからそれは、あなたたちが襲ってくるから……」

「今の貴様らならそう思おう。

 だが、この世界、女神はそうは思っておらん」

「そんな!」

「女神はこの世界を正で満たしたいのよ。

 我らはこの世界のバグ。

 存在すら認められんのだ、女神は」


 アンナたちは皆、息を呑んだ。


「バグである我らを消さんと異世界からまで駒を寄越す。貴様らの様にな」


 沈黙するアンナたちを見回し、ノクスは言葉を重ねる。


「だから、女神に見せてやるのだ。負で満たした世界を。

 全てが負で満たされた完全なる世界をな――」


 アンナたちは、ノクスの言葉に飲まれていた。

 彼が見据えているのは、自分たちではない。

 その先にいる女神だった。


 しかし、


「だから何だ?」白い煙が立ち上る寅二郎が声を上げた。


「お前が女神に言いたいことがあるのは分かった。

 だがな、それで泣くのをこらえている女がいるんだよ」

 世界に囚われ、それでも微笑を浮かべる聖母マリアを思い浮かべる。


「結局、お前は目の前を見ていない。お前の前にいるのは俺たちだぜ」


 白い光を纏った寅二郎が剣をノクスに向ける。

 寅二郎の姿勢に、アンナたちも姿勢を正す。


「俺はお前を許さない。女神の文句は死んでから言え」

「くだらん。虫ごときが……」ノクスの纏う瘴気が噴き上がる。


寅二郎たちから立ち上る光の覇気。

ノクスから吹き出す闇の瘴気――。


光と闇の衝突は最終局面へ向かうのだった。

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