第五話 リ・エスティーネ王国はつらいよ⑤
黒い渦を抜け、寅二郎たちは大魔王ノクスを目指し走り続けていた。
「よかったの?」アンナが寅二郎に声をかけた。
「ああ、帰ったらケツでも蹴られるかもな」
と寅二郎が苦笑いで返す。
(帰ったら……か)アンナは先を走る寅二郎の背中を見ていた。
うっすらと白く光るその背中は、昔、ベルゼ撃退の時見た背中。
(私たちだって、あの時と同じじゃない)
アンナは寅二郎の隣へと速度を上げた。
隣に並び走るアンナの横顔を見て、寅二郎が微笑む。
「帰ったら、マリアともっこり。絶対勝つぞ!」
寅二郎のセリフに皆、一瞬言葉に詰まる。
「ぷっ。あんた何も変わってないじゃない!」
アンナが寅二郎の肩を叩き、
《暁の翼》の面々も噴出していた。
「間違いなく、折檻だな」
「そうね、ケツ、だけじゃ済まないわ」
「馬鹿ね」
「マリア様とは駄目ですよ!」
皆の雰囲気に満足したのか、寅二郎が言う。
「まぁとっとと魔王なんぞぶちのめして帰るぞ」
アンナたちは顔を引き締め、「おう!」と、声を揃えるのだった。
周りは黒いマナが漂う空間。しかし地の底へと向かう感覚だけが分かる。
そして、その先に魔王ノクスがいる。その確信を持って走るのだった。
一方、地の底かと思えるその場所。負のマナが渦巻く終着点。
大魔王ノクス・リヴェルタは玉座らしき闇に腰を下ろしている。
「来るか女神の駒よ、しかし邪魔はさせん。
この世界は闇に沈まねばならんのだ」
静かに、しかし力強く宣言するノクス。
光と闇の激突は、
もはや、避けようのない運命として、すぐそこまで迫っていた。




