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異世界はつらいよ~転生勇者放浪記~  作者: 花京
第七章 人魔決戦編
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第五話 リ・エスティーネ王国はつらいよ④

 ルゼリア、その世界樹のもとから馬車を急がせ、寅二郎は帰ってきた。

 リ・エスティーネ王国首都エスティアへ。

 王宮へ辿り着くなり、馬車を駆け下り、寅二郎が走り出す。


「行くぞ!“英雄召喚”の祭壇はこっちだ!」

 シドやリラも、後を追って走る。


 寅二郎の目の前に門番の兵士。

 寅二郎を見つけると、

「急げ!向こうだ」

「聖母マリアを頼んだぞ!」

 制止するどころか、神殿を指差す。


(事態はそこまで差し迫っているのか!)

 後を走るシドに戦慄が走る。


「分かった。ありがとう」

 寅二郎は声をかけ、さらに速度を上げる。

 もはやシドやリラの事も構わず走る寅二郎。


 神殿へと入り、「見えてきたぞ」と叫んだ。


 ついに寅二郎が、“英雄召喚”の間へと辿り着いたのだ。


「これは!?」


 寅二郎の目に飛び込んできたのは、

 国王レオニス四世、王国騎士団。


 そして《暁の翼》の面々。


 祭壇の前には、祈りを捧げるマリア、傍に侍るアンナが見えた。


「マリア!」黒い鎖に縛られたマリアに駆け寄る。


「来てくれ、……ましたね」

 マリアの声はあまりにか細い。


「どうなってんだ!?アンナ!」寅二郎が叫び、

「それが……」と、アンナが立ち上がる。

 そこへ、肩で息をするシドやリラが追い付いた。


「揃った様じゃな。……儂が説明しよう」


 そう言ってレオニス四世が、寅二郎たちに事情を説明した。


――魔王ノクスの魔法により、世界規模のマナ異常が起きていること。その震源がこの“英雄召喚”の祭壇の間、その奥の黒い渦。濃い負のマナに満たされたその先に魔王がいること。その余波でマリアが世界に囚われていることを。


「要はあの奥に魔王がいるんだな!

 ぶっ殺せばマリアは解放されるんだな!」


 寅二郎の体に白い光が立ち上る。


 そして、寅二郎は黒い渦の前へと立った。

 ふう、と短く息を吐いた。

 次の瞬間、躊躇もなく、黒い渦へと身を投げた。


「馬鹿!聞いていなかったのか、そこは」

 シドが叫ぶが、

「何だってんだ、これくらい。行けるじゃねえか!」

 寅二郎は渦から出てきた。


「そんな!?」アンナたちに衝撃が走る。

(トラジロウ、あなた……)

 アンナは拳を握りしめる。


「いいから、来てみろって」寅二郎に手招きされ、

 アンナたち《暁の翼》の面々が渦へと挑む。

 アンナたちは顔を見合わせ、一斉に渦へと身を入れた。

「行ける!? さっきまでの不快さが、薄れてる?」


 アンナたちの顔に希望の光が灯る。


「これなら!」


 アンナたちは手を開閉させ、体の具合を確かめる。

「行けるな?」寅二郎の言葉に頷くアンナたち《暁の翼》。

 そして、シドやリラも渦の前に立つ。


「行くぞ!」寅二郎の声と共に皆、黒い渦へと飛び込んでいく。

 寅二郎、アンナたち、そして――。


「ぐっ」


 シドが渦へと身を入れた途端、

 シドに負のマナが押し寄せる。


「トラジロウ!」アンナが叫び、寅二郎が振り返ると、

 シドがのどを押さえ、苦しみ動けない様子。


「どうするの?」アンナの言葉に、


 寅二郎がシドへと歩み寄る。


 シドは苦しみに顔を歪め、額には脂汗が滲んでいる。

 それでも渦から出ようとはせず、必死にその場に踏みとどまっていた。


 その姿を見つめる寅二郎の目に、


 一瞬だけ、迷いが宿った。


 しかし寅二郎は、


「後は任せろ!」とシドを渦の外へと突き飛ばした。


「!?」シドは渦の外へと転がり出ると、大きくえずいた。

「ぐは」四つん這いになり、胃液を吐き出す。

 額からは流れるような汗が噴き出す。

 全身から吹き出した汗が水たまりを作り出す程だ。


「シド!?」


 今まさに渦へ飛び込もうとしていたリラがシドへと駆け寄る。

 リラの回復魔法を浴びながら、シドは拳を床に叩きつけた。


ドン!


「何故だ!ここまで来て……」シドの目には涙が溢れた。


「ここまで来て。

 ここまで来て私は……お前の隣に立てないのか!」


 シドは天を仰ぎ、叫んでいた。流れる涙もそのままに。


「うわあああああ!」


“英雄召喚”の間に響き渡る慟哭に、

誰も声を掛けられる者はいなかった。

長く旅を共にしてきたリラですら、

自らの涙を拭う事も出来ず、シドの姿を見ている他無かったのだった。

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