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異世界はつらいよ~転生勇者放浪記~  作者: 花京
第七章 人魔決戦編
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第五話 リ・エスティーネ王国はつらいよ③

 まるで世界に縛られたかのような聖母マリア。

 その姿に誰も動くことが出来なかった。

 しかし、ようやくアンナが一人、聖母マリアへと歩き出した。


「マリア様……」


 アンナがマリアに掛けられた鎖に触れようとする。

 しかし、その手は虚空を掴むのみ。


「この状態のマリアに気付いたのはつい先日でな。

 日課である礼拝よりいつまでも戻らぬ彼女を心配した侍女が、

 ここへと参ったことで発見したのだ」


「その鎖も国の魔導士たちに解析させたが解けなんだ。

 彼らの言うには、これは副産物。

 魔王ノクスの術による作用で、こう見えておるだけなのだ」


 皆の胸に絶望が広がっていく。


「何か対策は?解決法は無いのですか!」

 マリアからレオニス四世へと振り返り、アンナが叫ぶ。


「術者を止める。魔王ノクスを討伐する他、無いようじゃ」

 レオニス四世が唇を震わせ、言葉を絞り出した。


「では、魔王ノクスの居場所は!奴は今、どこにいるのです?」


「これほどの術、術者が近くにおらねば理屈に合わん。

 そう思い、それこそ国中を調べさせた」


「それでも、分からないと?

 世界規模だというこれほどの魔法の震源が分からない!?」


 もはや発狂するのではないかという勢いでアンナが叫ぶ。


 その言葉に、レオニス四世は沈痛の面持ちで答える。


「世界規模での“スタンビート”、

 各地のダンジョンでの異常なマナが渦巻くように集中する場所。

 そして人々の絶望が、祈りとなって集まる聖ローマンの大本山。

 つまり、奴は。魔王ノクスは――」


 レオニス四世はある一点を指差し、睨みつける。


「“英雄召喚”の祭壇、その奥に、奴はいるのじゃ!」


 アンナ以下全ての人間が、レオニス四世の指さす先を見る。

“英雄召喚”の祭壇、光る魔法陣の奥に黒く濁ったマナが渦を巻いていた。


「この奥に、魔王ノクスが……」

 アンナたち《暁の翼》の面々がその前に立つ。


「王国騎士団の精鋭が、侵入を試みたが、

 あまりの負のマナの濃さに誰もが耐えられなんだ」


 アンナはごくりと唾を飲みこみ、そっと触れてみた。

 渦の中に手が埋もれていく。触れた先から何かが這い寄る感覚。

 さらに踏み込み、渦の中へと上半身を預けたが、


「ぐっ」


 堪らぬ息苦しさを覚え、渦から身を離す。


「行けないことは無い。だけど……」


 《暁の翼》、皆も次々と手を伸ばしたが、

 誰一人として、アンナ以上に踏み込める者はいなかった。


 場を沈黙が支配する。


「どうする?」ようやくアリアが皆の顔を見回した。

「速攻で魔王を倒しちゃう?」リルルの軽口も勢いがない。

「すぐそこに魔王がいるなら。な」ヤスコは腕を組む。

「急がないと、マリア様が……」ユキナは汗をかいている。


(ここで行かなきゃ!私は“勇者”なんだから……)


 無謀は承知。それでもアンナが覚悟を決めた。


 しかし、


「待ってください」


 そのか細い声に皆が振り返る。


 声の主は聖母マリアだった。


 アンナたちがマリアに駆け寄る。


「マリア様!」

「大丈夫ですか!気をしっかり」


 マリアは祈りの姿勢のまま、弱弱しくも微笑んだ。


「待ってください、アンナ。

 あなたの“勇者”としての覚悟、否定するつもりはありません。

 ですが、待ってくれませんか」


 アンナが膝をつき、マリアと視線を合わせる。

「ですがマリア様、このままでは……」

 アンナも手を組み、祈るような姿勢になった。


「私の事はいいのです。

 女神はこの世界の歪みを正すため、

“あなたたち”を呼ばれたのですから」


 マリアは絞り出すような声を上げた。


「聞こえませんか。“あなたたち”の欠けていたピース。

 その最後のピースがやってくる音が」


そして、アンナの耳に聞こえてきた。

こちらへと走りくる、あの男の足音が――。

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