第五話 リ・エスティーネ王国はつらいよ②
カルナードで緊急帰国の要請を受けたアンナたち《暁の翼》一行は、馬車を乗り継ぎまさに夜を徹して走り続けた。王都エスティア、その王宮へと辿り着いたアンナたちは馬車を降りた途端に、謁見の間へと走る。エルザたち王国騎士団第三隊も後に続く。
謁見の間の扉を自ら開くと、アンナは叫ぶ。
「《暁の翼》、只今戻りました!
王よ、一体何が起こったというのです」
最早儀礼などお構いなしで、アンナたちは王のもとへと走り寄る。
レオニス四世もその姿を見るや、玉座を立ち上がり声を上げる。
「よくぞ戻ってくれた!“勇者”カミシロ・アンナよ」
王の表情を確認したアンナは、そこでようやく跪く。
「大至急の帰国要請、しかも内容は不明。
取るものもとりあえず、急ぎ戻りました。
王よ、一体何が……」
《暁の翼》、そしてエルザたち王国騎士団の面々も跪く。
「魔王ノクスの狙いが見えた。闇魔法、《リバース》、
世界規模での“スタンビート”、それらもすべて前座よ……」
レオニス四世は玉座から踏み出すと、アンナたちの横を通り過ぎる。
「!?」国王自ら、どこかへと導こうというのか。
その国王の行動に、アンナ以下これまでにない異常を感じ息を呑む。
「ついて参れ」その言葉を絞り出した後、レオニス四世は黙って歩き続ける。
アンナたちは、自分たちの早鐘のように打つ鼓動を聞きながら後を続いた。
そして、国王が立ち止まったのは――。
「ここは!」アンナが声を上げた。
そこは、“始まりの場所”。アンナたちが召喚された“英雄召喚”の祭壇。
ローマ風の柱が並ぶ神殿のような場所で、
床にはかすかに光る魔法陣が浮かんでいた。
ガラスを擦り合わせたような、鎖の擦れる音だけが耳に障る。
魔法陣の前に祈りを捧げる人物が見える。
「聖母マリア様!?」皆が声を上げる。
しかし、迂闊に動くのは憚られた。
なぜなら聖母マリアには、
ただただ祈りを捧げているように見える彼女には、
何か黒く光る鎖のようなものが四方から絡みついていたのだ。
「王よ!」アンナの叫びにレオニス四世は頷く。
「おそらくあれが魔王ノクスの切り札。
《リバース》どころか、
聖ローマン教、女神の思想ごと闇に落とそうとしておるのだ」
レオニス四世の言葉に、
アンナ以下すべての者が、雷に打たれたように体を硬直させた。
沈黙する彼女らの耳には、鎖の擦れる音だけが聞こえるのだった。




