第四話 ガルディア帝国はつらいよ?②
帝国の女スパイ、フジコ。
寅二郎とも因縁のある彼女、
今は単身で帝国内のダンジョン《鉱物の積層》に潜っていた。
この《鉱物の積層》でも“スタンビート”は発生しており、ひたすら息を顰め、敵を躱しながらも少しずつ奥へと歩を進めていた。
(さすがに“スタンビート”。途轍もない魔物の数ね)
洞窟内の横穴に身を顰め、額の汗を拭う。
眼下には、蠢くトカゲ型の魔物たちが入口へ向かい列をなしている。
無尽蔵に見えるその群れも、時に途切れる。
その瞬間を見逃さず、フジコは走る。
(地図によればコアのあるのは6階層。しかし“アレ”はどこかしら?)
彼女の狙う“アレ”。
それは希少金属“オリハルコン”だった。
帝国の次世代兵装――“ゴーレム部隊”。その中核を成す素材。
《鉱物の積層》は元々帝国の鉱物資源の中枢、
ダンジョンという性格もあり様々な鉱物が眠っている。
再び魔物の気配を感じ、岩陰に身を顰めるフジコ。
通り過ぎていく魔物たちをやり過ごしながら壁の一点を睨む。
(あれは? もしや!)フジコの胸が一つ跳ねる。
鈍い鉄色や黒褐色の壁の中に、一点だけ光って見えたのだ。
フジコは息を深く吸い、そして吐く。
魔物たちの流れが途切れるのをひたすら神経をすり減らし待つ。
(今だ!)フジコは流れの途切れた途端、そこへと張り付く。
しかし、
(違う!)残念ながらそれは光の反射、角度で光って見えただけだった。
フジコは苦笑いを浮かべ、さらに奥へと歩き出した。
ひたすら神経をすり減らし、空腹すら忘れ、
遅々として、しかし着実に奥へと進む。
結局、フジコはコアの間、その直前の通路へと辿り着いていた。
(やはり“アレ”があるならコアの間、か)
そしてフジコは、コアの間へと一歩踏み出した。
《鉱物の積層》、そのコアの間はフジコの想像より大きかった。
所々に岩石が転がり、中央にはコアが見えた。
赤黒く脈打つ様に色が明滅する触手を伸ばし、
その触手からは黒い雫が垂れる。
その雫が地に落ちると、そこから魔物が生まれた。
(あれが“スタンビート”、魔物発生の瞬間なのね)
フジコは岩石に身を隠しながら、中へと進んでいく。
コアの傍には魔王軍らしい存在。
額に一本の角を生やした鬼。もう一人はフクロウ男か。
明らかに魔物と違う存在感を放っていた。
赤黒い瘴気を漂わせたそれらが声を上げた。
「アイスロック将軍がその身を捧げた“スタンビート”だ。
我らはこれを守り、少しでも長く維持するまでだ」
(アイスロック?身を捧げる?)
フジコはその言葉を吟味する。
フジコはアイスロックという名前に聞き覚えがあった。
(アイスロック!
確か“コルダ丘陵”でレオン大将軍に敗れ、撤退した魔王軍。
その身を捧げる。つまりコアに身を捧げ、暴走させたってところかしら?)
次々と生まれ、入口へと向かう魔物たちをやり過ごすフジコ。
次の動きを思案して辺りを見回していた彼女だったが、
(あれは!)フジコはついに見つけた。
コアの奥、黒褐色の壁に一点の光。
今度こそ見紛うはずもない。
なぜならそれは七色の光を放っていたのだ。
(オリハルコン!)
しかし、緊張の限界か、一瞬の油断か。
その瞬間、世界から音が消えたように感じ――。
コーン。
彼女が隠れていた岩、オリハルコンを確認しようと手を添えてしまったその岩が、一か所、崩れ落ち、音を立てた。
「誰だ!」
「そこに誰かいるのか!」
魔王軍の一人がこちらへと走り出し、もう一人が魔法の詠唱を始める。
「くっ」
鬼の槍を躱し、転げながらも次の岩へと走り出すフジコ。
彼女のオリハルコン奪取作戦は最大の試練を迎えていた。




