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異世界はつらいよ~転生勇者放浪記~  作者: 花京
第七章 人魔決戦編
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第四話 ガルディア帝国はつらいよ?②

 帝国の女スパイ、フジコ。

 寅二郎とも因縁のある彼女、

 今は単身で帝国内のダンジョン《鉱物の積層》に潜っていた。


 この《鉱物の積層》でも“スタンビート”は発生しており、ひたすら息を顰め、敵を躱しながらも少しずつ奥へと歩を進めていた。


(さすがに“スタンビート”。途轍もない魔物の数ね)


 洞窟内の横穴に身を顰め、額の汗を拭う。

 眼下には、蠢くトカゲ型の魔物たちが入口へ向かい列をなしている。

 無尽蔵に見えるその群れも、時に途切れる。


 その瞬間を見逃さず、フジコは走る。


(地図によればコアのあるのは6階層。しかし“アレ”はどこかしら?)


 彼女の狙う“アレ”。

 それは希少金属“オリハルコン”だった。

 帝国の次世代兵装――“ゴーレム部隊”。その中核を成す素材。

《鉱物の積層》は元々帝国の鉱物資源の中枢、

 ダンジョンという性格もあり様々な鉱物が眠っている。


 再び魔物の気配を感じ、岩陰に身を顰めるフジコ。

 通り過ぎていく魔物たちをやり過ごしながら壁の一点を睨む。


(あれは? もしや!)フジコの胸が一つ跳ねる。


 鈍い鉄色や黒褐色の壁の中に、一点だけ光って見えたのだ。

 フジコは息を深く吸い、そして吐く。

 魔物たちの流れが途切れるのをひたすら神経をすり減らし待つ。


(今だ!)フジコは流れの途切れた途端、そこへと張り付く。


しかし、


(違う!)残念ながらそれは光の反射、角度で光って見えただけだった。


 フジコは苦笑いを浮かべ、さらに奥へと歩き出した。


 ひたすら神経をすり減らし、空腹すら忘れ、

 遅々として、しかし着実に奥へと進む。

 結局、フジコはコアの間、その直前の通路へと辿り着いていた。


(やはり“アレ”があるならコアの間、か)


 そしてフジコは、コアの間へと一歩踏み出した。


《鉱物の積層》、そのコアの間はフジコの想像より大きかった。

 所々に岩石が転がり、中央にはコアが見えた。

 赤黒く脈打つ様に色が明滅する触手を伸ばし、

 その触手からは黒い雫が垂れる。

 その雫が地に落ちると、そこから魔物が生まれた。


(あれが“スタンビート”、魔物発生の瞬間なのね)


 フジコは岩石に身を隠しながら、中へと進んでいく。

 コアの傍には魔王軍らしい存在。

 額に一本の角を生やした鬼。もう一人はフクロウ男か。

 明らかに魔物と違う存在感を放っていた。

 赤黒い瘴気を漂わせたそれらが声を上げた。


「アイスロック将軍がその身を捧げた“スタンビート”だ。

 我らはこれを守り、少しでも長く維持するまでだ」


(アイスロック?身を捧げる?)


 フジコはその言葉を吟味する。

 フジコはアイスロックという名前に聞き覚えがあった。


(アイスロック!

 確か“コルダ丘陵”でレオン大将軍に敗れ、撤退した魔王軍。

 その身を捧げる。つまりコアに身を捧げ、暴走させたってところかしら?)


 次々と生まれ、入口へと向かう魔物たちをやり過ごすフジコ。

 次の動きを思案して辺りを見回していた彼女だったが、


(あれは!)フジコはついに見つけた。


 コアの奥、黒褐色の壁に一点の光。

 今度こそ見紛うはずもない。

 なぜならそれは七色の光を放っていたのだ。


(オリハルコン!)


 しかし、緊張の限界か、一瞬の油断か。

 その瞬間、世界から音が消えたように感じ――。


コーン。


 彼女が隠れていた岩、オリハルコンを確認しようと手を添えてしまったその岩が、一か所、崩れ落ち、音を立てた。


「誰だ!」

「そこに誰かいるのか!」


 魔王軍の一人がこちらへと走り出し、もう一人が魔法の詠唱を始める。


「くっ」


 鬼の槍を躱し、転げながらも次の岩へと走り出すフジコ。


彼女のオリハルコン奪取作戦は最大の試練を迎えていた。

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