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異世界はつらいよ~転生勇者放浪記~  作者: 花京
第七章 人魔決戦編
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第三話 カルナードはつらいよ④

「我は集める。我は奪う。

 ここに在るすべての魔力を、意志なく、選ばず、拒みもせず。

 その総てを束ね、空に掲げ、黒き太陽として顕現させよ」


 リッチの詠唱完了が迫る中、アンナたちはアンデッドの中を突き進む。


 しかし、


「うわあ」“奴隷兵団”から声が上がる。


 手薄となったカルナード兵たちにアンデッドたちが押し寄せたのだ。


「おい!奴隷の刻印を発動させろ!」ガガンが叫ぶ。


(奴隷の刻印?)


 骸骨兵を切り捨てながらも、アンナの胸に広がる不安。

 その不安が耳鳴りとなってアンナを苛む。

 そんなアンナの不安を見捨てるように――。


「奴隷の刻印発動!奴隷ども、やれえええ!」

 カルナード兵の叫びに、アンナはつい顔を向けてしまった。


 見ると、


「おおおお!」ガガンたちが叫ぶ。


 皆、額の刻印から淡い光を放ち、目前の骸骨兵たちを押し戻す。

 ある者は剣を刺されたまま、ある者は刻印から血を垂らし、

 ガガンも血を吐きながら、アンデッドたちへぶち当たる。


 堪らずアンナは立ち止まってしまった。

 戦闘中の一瞬の空白。

 そこへエルザが走りこみ、


バチン!


 アンナは頬を張られた。


「アンナ!しっかりして!今は前を見て!」


 アンナが顔を向けると、アリアが突っ込み、ヤスコですら体ごと骸骨兵にぶつかっていった。そして二人が叫ぶ。


「アンナ!」


 アンナは剣を握り直し、走り出す。


「ごめん」とエルザにだけ言い残し、


 そして走り出したアンナには見えた。


 こじ開けられたリッチへの道が――

 アンデッドたちの隙間が――

 仲間たちが作り上げた勝利への光――


 待っていたかのように肩に盾を担いだアリアへ駆け上るアンナ。


「こぉこぉだあああ!」


 飛び上がり、振り上げた剣に光が集まり柱となった。

 袈裟切りに振り下ろした剣が半円を描き、


「何だと!」


 黒い炎を纏ったリッチごと、周囲を消し飛ばした。


 そうして“奴隷兵団”と王国騎士団も一気に盛り返し、

 コア周辺はようやく落ち着きを取り戻した。



「やっぱすげえな、“勇者”ってのは」

 ガガンがアンナに言った。


「そんなこと、……それよりも」

 その姿を見て、アンナの耳鳴りが少しだけ遠のいた。


「ああ、奴隷の刻印のことか」ガガンが口を拭いながら言う。


「今回は“しゃあねぇ”、だろ?おかげで生き残れた」


 カルナード兵の一人が、恐る恐る付け加える。


「“奴隷の刻印”は確かに彼らを縛ります。

 ですが彼らの意志まで縛らぬ様、

 我らもその力の使い方、考えて見せます」


「頼むぜ、大将」などとカルナード兵の肩を叩くガガン。

 その姿を見つめたアンナは、次にエルザの下へと歩き出した。


「ごめんなさい」アンナはエルザに頭を下げた。


「違うでしょ?」エルザは微笑む。


 アンナは、考え込みしばらくして、

「ありがとう。助かった」と絞り出した。


「いえいえ。

 そうよアンナ、あなたには前を向いていてもらわなくちゃ」


 エルザのセリフに、アンナはまた頭を下げそうになり、すぐに顔を上げる。


「そうだよね。私は皆の為に前を向くって決めたんだから」


 アンナの後ろに、《暁の翼》の面々が走り寄る。

「違うでしょ。“私たち”が。でしょ」

 そうして皆の顔に笑顔が戻った。


 アンナは胸の内の不安も、耳鳴りも押し込めた。


(“みんなの平和”のため、私たちは前を向き続ける!)


そんなアンナたちの向こう、コアより先の洞窟からは、

規則正しい、何者かの足音が近づいているのだった。

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