第三話 カルナードはつらいよ④
「我は集める。我は奪う。
ここに在るすべての魔力を、意志なく、選ばず、拒みもせず。
その総てを束ね、空に掲げ、黒き太陽として顕現させよ」
リッチの詠唱完了が迫る中、アンナたちはアンデッドの中を突き進む。
しかし、
「うわあ」“奴隷兵団”から声が上がる。
手薄となったカルナード兵たちにアンデッドたちが押し寄せたのだ。
「おい!奴隷の刻印を発動させろ!」ガガンが叫ぶ。
(奴隷の刻印?)
骸骨兵を切り捨てながらも、アンナの胸に広がる不安。
その不安が耳鳴りとなってアンナを苛む。
そんなアンナの不安を見捨てるように――。
「奴隷の刻印発動!奴隷ども、やれえええ!」
カルナード兵の叫びに、アンナはつい顔を向けてしまった。
見ると、
「おおおお!」ガガンたちが叫ぶ。
皆、額の刻印から淡い光を放ち、目前の骸骨兵たちを押し戻す。
ある者は剣を刺されたまま、ある者は刻印から血を垂らし、
ガガンも血を吐きながら、アンデッドたちへぶち当たる。
堪らずアンナは立ち止まってしまった。
戦闘中の一瞬の空白。
そこへエルザが走りこみ、
バチン!
アンナは頬を張られた。
「アンナ!しっかりして!今は前を見て!」
アンナが顔を向けると、アリアが突っ込み、ヤスコですら体ごと骸骨兵にぶつかっていった。そして二人が叫ぶ。
「アンナ!」
アンナは剣を握り直し、走り出す。
「ごめん」とエルザにだけ言い残し、
そして走り出したアンナには見えた。
こじ開けられたリッチへの道が――
アンデッドたちの隙間が――
仲間たちが作り上げた勝利への光――
待っていたかのように肩に盾を担いだアリアへ駆け上るアンナ。
「こぉこぉだあああ!」
飛び上がり、振り上げた剣に光が集まり柱となった。
袈裟切りに振り下ろした剣が半円を描き、
「何だと!」
黒い炎を纏ったリッチごと、周囲を消し飛ばした。
そうして“奴隷兵団”と王国騎士団も一気に盛り返し、
コア周辺はようやく落ち着きを取り戻した。
「やっぱすげえな、“勇者”ってのは」
ガガンがアンナに言った。
「そんなこと、……それよりも」
その姿を見て、アンナの耳鳴りが少しだけ遠のいた。
「ああ、奴隷の刻印のことか」ガガンが口を拭いながら言う。
「今回は“しゃあねぇ”、だろ?おかげで生き残れた」
カルナード兵の一人が、恐る恐る付け加える。
「“奴隷の刻印”は確かに彼らを縛ります。
ですが彼らの意志まで縛らぬ様、
我らもその力の使い方、考えて見せます」
「頼むぜ、大将」などとカルナード兵の肩を叩くガガン。
その姿を見つめたアンナは、次にエルザの下へと歩き出した。
「ごめんなさい」アンナはエルザに頭を下げた。
「違うでしょ?」エルザは微笑む。
アンナは、考え込みしばらくして、
「ありがとう。助かった」と絞り出した。
「いえいえ。
そうよアンナ、あなたには前を向いていてもらわなくちゃ」
エルザのセリフに、アンナはまた頭を下げそうになり、すぐに顔を上げる。
「そうだよね。私は皆の為に前を向くって決めたんだから」
アンナの後ろに、《暁の翼》の面々が走り寄る。
「違うでしょ。“私たち”が。でしょ」
そうして皆の顔に笑顔が戻った。
アンナは胸の内の不安も、耳鳴りも押し込めた。
(“みんなの平和”のため、私たちは前を向き続ける!)
そんなアンナたちの向こう、コアより先の洞窟からは、
規則正しい、何者かの足音が近づいているのだった。




