第三話 カルナードはつらいよ③
盾を構えるアリアを先頭にアンナたち《暁の翼》が侵入を開始した。
《悠久の王墓》、その地下へと通じる廊下には、冷たい風が吹き抜ける。
しばらく進んだところで、アリアが立ち止まり、手を上げた。
「いよいよだ」その言葉で皆気合を入れなおし、広間へと出た。
見ると、カルナード兵らしき集団。
その向こうに夥しい魔物。
骸骨兵などのアンデッドたちが、
カルナード兵たちに群がっている。
「急ごう!」アンナたちが走り出す。
「はああああっ」アンナの剣に光が巻き付いていく。
その輝く剣を一閃すると、骸骨兵をまとめて斬り飛ばす。
「おお!すげぇ!」
「一撃かよ!」
カルナード兵たちに歓声が上がり、
その前に《暁の翼》たちが陣取った。
「お待たせ!」剣を構えつつアンナが声をかける。
カルナード兵に安堵の表情が浮かぶ。
しかし、
「遅えぞ!何してたんだ!」
軽鎧の禿頭男が叫んだ。
「!?」アリアがその声に一歩出ようとするが、アンナが手で制す。
「“勇者”なんだろ?お前は!」
なおも声を上げる男にアンナが言った。
「すみませんでした。……ですがあなたは?」
男が一歩前に出る。
そして、胸を張り声を張り上げる。
「俺はガガン。“奴隷兵団”、ここの隊長だ!」
“奴隷”、その言葉にアンナの呼吸が止まる。
(カルナードの奴隷制度は凍結されたはずなのに――)
アンナが考え込んでいると、
「まぁいい。とにかく今はあいつを何とかしてくれ」
ガガンと名乗った男が指差した先を、
アンナはようやく振り返った。
今も押し寄せるアンデッドたちの奥、コアが見える。
そのコアからは悍ましい触手が四方へ伸び、
その横には魔王軍らしき魔族二人。
そして魔族の後ろには、襤褸布を纏った骸骨。頭には冠。
魔王軍二人の纏うそれよりどす黒い“瘴気”。
「まさか、リッチか!」エルザが叫ぶ。
――リッチ。死して尚魔法の深淵を求めるという存在。高位の魔法を使いこなす、知性ある死人だ。
瘴気を立ち上らせる魔族が一人、ほくそ笑む。
「遅かったな。おかげでこれほどの魔物が生まれたぞ」
魔族の隣で、冠を被った骸骨、リッチがゆっくりと顔を上げた。
「ふん、私を魔物呼ばわりとはな。
しかし“勇者”か。
面白い、私の魔法の実験台となってもらおうか」
そう言ってリッチが詠唱を始めた。
「黒き太陽の下、何人生き残るかな……
影よ、死よ、行き場を失い、名も奪われた力よ。
主なき魔力、捨てられし願い、世界に拒まれたすべての残滓よ――」
リッチの詠唱と同時に、
周りのアンデッドたちからも瘴気が立ち上る。
エルザが堪らず叫ぶ。
「まずいわ!おそらくあれは闇属性最上位、《ブラック・サン》!」
アンナたちは、その異様な光景に息を呑む。
彼らの立ち上る瘴気が交わり、頭上に黒く輝く球体が生まれる。
その目の前でエルザが骸骨兵を蹴散らし、騎士団の陣形を変化させた。
「アンナ!私たちが道を開く!
とにかくリッチを止めてくれ!」
エルザの叫びで王国騎士団が、魚鱗の陣で走り出した。
その姿に、アンナは一度自身の頬を張った。迷いを振り払うように。
そして、
「行くよ!」と叫び後に続く。アリアとヤスコも続き、
その体には、ユキナの加護の光が降りてくる。
「《ライトニングアロー》!」リルルは雷を放った。
しかし、その雷は魔王軍の盾に逸らされる。
「光を持たずして光を喰らい、
熱を放たずして熱を奪い、
命を生まずして命を質量へと変える。
それは天体にあらず、されど天体の皮を被りしもの――」
朗々と、謳い上げるようなリッチの詠唱。
先頭で骸骨兵を切り飛ばすエルザが叫ぶ。
「詠唱を止めさせるんだ!」
それでもリッチの詠唱は続いていく。
「――世界の理に反し、
正しき循環を否定する
反転せし太陽の法則よ――」
走るアンナの胸が、嫌な予感に締め付けられる。
リッチの詠唱が続く中、アンナたちの決死の突撃が敢行された!




