第一話 ルゼリアはつらいよ⑪
寅二郎は再び、世界樹の前に立っていた。
一度強い風が吹き抜けた。
世界樹から騒めく音が降り注ぐ。
「マナの流れの先を見極める。
きっとその先には魔王がいる」
シドやリラが息を呑む。
その音が聞こえる程の静寂の中、
寅二郎が世界樹に触れた。
寅二郎の中に流れのイメージが入り込んでくる。
ゴウゴウとうるさい程に流れ込む。
寅二郎の体が小刻みに震え出した。
その様子にシドとリラが声を上げる。
「おい!」「大丈夫?トラジロウ」
すぐに寅二郎が世界樹から手を離した。
寅二郎の顔が困惑している。
震える手を眺め、視線をファルディーンに移した。
「分からねぇ、見えねぇんだ!ファルディーン!」
寅二郎の姿にすっと目を細め、ファルディーンが言った。
「違う、トラジロウ。何を焦っている?
“見たいものを探す”のではない。
深く潜り、ただ“見えるものを見る”のだ」
ファルディーンの言葉に、寅二郎の胸が一つ跳ねる。
さらさらと冷たい風が吹き抜けた。
そして寅二郎は、ゆっくりと深呼吸を入れた。
「もう一度だ」寅二郎が呟き、世界樹へと向き直る。
そっと世界樹に手を触れる。
ゴウゴウと鳴る流れの中に寅二郎は立っていた。
(深く、流れに身を任せる)
徐々に寅二郎の体が引き寄せられるように感じられた。次第にそれは流れに溶け込み始め、(これは…)寅二郎の頭に風景が流れ込んでくる。(懐かしいような…)どこかの王城が見え、祭壇の様な場所が見えた。(あれは!)マナが吸い込まれ渦を巻く黒い場所。
寅二郎は目を見開くと叫んだ。
「“英雄召喚”の神殿!魔王はその奥にいる!」
「“英雄召喚”の神殿!リ・エスティーネ王国か!」
「見えたのね!トラジロウ」
シドやリラが叫びながら、寅二郎に駆け寄る。
寅二郎は振り返ると微笑みを浮かべ、ファルディーンに言った。
「ありがとう、ファルディーン。おかげでようやく、見えたよ」
ファルディーンは首を振り、言った。
「礼には及ばん。それに笑っている場合では無いぞ?
これからが本番、魔王ノクスとの決戦なのだからな」
寅二郎はファルディーンに頷き、
「シド、リラ、行くぞ!」と走り出した。
その背中を見送り、ファルディーンが呟く。
「頼んだぞ、トラジロウ。
お前のその“勇者”の在り方で、魔王の野望を打ち砕け」
再び強い風が吹き、世界樹が騒めきを鳴らすのだった。




