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異世界はつらいよ~転生勇者放浪記~  作者: 花京
第七章 人魔決戦編
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第一話 ルゼリアはつらいよ⑤

 シドと寅二郎が武器の確認をしている。


 そして、寅二郎はリラに言った。

「リラちゅわん、バフくれたら後はここにいてもいいよ?」


「馬鹿!行かないわけないでしょ」

 リラはそう言い、寅二郎に《アジリティアップ》の光が注ぐ。


「おお、これこれぇ!効くねぇ」寅二郎が微笑む。


 そしてシドが言った。

「リラ、無茶はするなよ」と、そして寅二郎には、

「トラジロウ、リラは任せろ。お前はまっすぐにコアへ」


 シドのセリフに、寅二郎もリラも頷く。


 その様子を見ていたパトラが、寅二郎たちに言った。


「覚悟は決まったようだな。皆いい戦士の顔をしている。

 しかし死ぬなよ。これを乗り越えなくて何が魔王討伐か」


 そしてパトラは、戦場へ顔を向け声を上げた。

「行くぞ!」「おう!」

 皆の声が一つとなって、戦場へと駆けだした。


 ひたすらにまっすぐ右側のダンジョンへと走る寅二郎。

「邪魔だ!」剣の一振りで魔獣をまとめて斬り飛ばす。

 その様を上から見れば、矢のように陣地を切り裂いていく。


「しかし、この数、異常だな」


 シドも時に風魔法、時に短剣で魔獣を切り捨てていく。

 それでもダンジョンの入り口はいまだ遠くに見える。

 リラも詠唱を続けながら必死に後をついてくる。


 しばらく無我夢中で敵を切り裂く寅二郎だったが、声を上げた。


「おい!あれだ。金虎族の族長だ」


 シドが見ると、金虎族の族長が巨大な猪と切り結んでいる。


「おら!」寅二郎は猪の片足を斬り飛ばし、族長に背を預ける。

「おお!“勇者”殿か。助かる」猪を両断し、族長が言う。


「族長、魔王軍ってのは?」


「あちらに!」寅二郎の声に族長が敵陣へと剣を向ける。


 見ると、右側のコアへの入り口、その前に“瘴気”を纏った二人組が見えた。二人とも額から角を生やし、口元に笑みを浮かべている。


「あれか!」寅二郎が剣を握り直したその時、


ウオオオオオッ!獣人たちの怒号が戦場に響いた。


「何だ?」


 寅二郎がそちらを見ると、魔獣が次々と空へと舞い上がる。

 まるで暴風が荒れ狂う様に突き進むそれ。

 まっすぐに左側のコアへと向かっている。

 その様に族長が叫ぶ。


「まさか!パトラ様、“白虎化”したのか!」

 族長の悲壮な表情に寅二郎が尋ねる。


「“白虎化”?何だそれ」

 迫る魔獣を斬り捨て族長が答えた。


「“白虎化”とはパトラ様の特殊スキル。

 命を削り力を得る、禁忌の業で……」


 族長の答えを最後まで聞かず、寅二郎が叫ぶ。


「くそったれぇ!」


 握りしめる剣に白い光が絡みつき、光の柱と変じていく。

 寅二郎は走り出し、剣を大上段に構える。


 迫る魔獣が襲うに任せ、寅二郎は走り続け魔族に迫ると、

「とっとと消えてろ!」と光の柱を袈裟切りに振り抜いた。


 魔族を含めた半円状、全てが二つに切り分けられていた。


「何と!」族長が声を上げるが、寅二郎は走り出していた。

 目前の右では無く、左のコア、パトラの方へ――。


 族長に追いついたシドが指示を飛ばす。

「族長!俺たちはこのまま右のコアへ!パトラはトラジロウに」


「あ、ああ」気を取り直した族長が剣を掲げ、叫ぶ。


「行くぞ!今こそ我ら金虎族の力を見せる時」


「おおおお!」金虎族の獣人たちも声を上げ、戦況は一気に変わった。


 右のコアへ向け雪崩れ込む流れの中、

 シドの目は寅二郎を追っていた。


(トラジロウ……)


一方、荒れ狂う嵐となって突き進む一匹の“白虎”、パトラは誰にも止められない。

 その前足の爪で狼を跳ね上げ、その剝き出しの牙で猪を食いちぎる。

 しかし輝くようなその白い毛並みは、灰色に明滅している。

 (それでも!)と魔族の姿を捉えると、瞬時に嚙み殺していた。


「パトラ様!」必死で後を追ってきた侍従たち。


 その前でパトラの姿が戻っていく。


 白い毛並みが消え人型へと戻るパトラは、前のめりに倒れた。


「パトラ様!」


 再び侍従が叫び、手に持っていた白いマントをかけ、抱きかかえる。


そこへ、寅二郎が駆け寄ってきた。


「パトラ!」寅二郎が声をかけると、パトラが微笑むが、

「トラジロウか…!」ゴポっと血を吐き出した。


「馬鹿野郎!お前が無茶してどうすんだ!」


 寅二郎の必死の表情に、

 血を吐きながら、それでもパトラは笑った。


「……お前の前では、カッコ悪い姿は見せられん」


 そう言ってパトラは立とうとする。侍従の肩を借りながら。


 その健気な、誇りの為に立たんとする姿に、


「馬鹿野郎」寅二郎は呟いていた。


「今だ!」「行くぞ」獣人たちが叫び左のコアへと押し寄せる。

その声を聞きながら、寅二郎は空を見上げるのだった。

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