第一話 ルゼリアはつらいよ⑤
シドと寅二郎が武器の確認をしている。
そして、寅二郎はリラに言った。
「リラちゅわん、バフくれたら後はここにいてもいいよ?」
「馬鹿!行かないわけないでしょ」
リラはそう言い、寅二郎に《アジリティアップ》の光が注ぐ。
「おお、これこれぇ!効くねぇ」寅二郎が微笑む。
そしてシドが言った。
「リラ、無茶はするなよ」と、そして寅二郎には、
「トラジロウ、リラは任せろ。お前はまっすぐにコアへ」
シドのセリフに、寅二郎もリラも頷く。
その様子を見ていたパトラが、寅二郎たちに言った。
「覚悟は決まったようだな。皆いい戦士の顔をしている。
しかし死ぬなよ。これを乗り越えなくて何が魔王討伐か」
そしてパトラは、戦場へ顔を向け声を上げた。
「行くぞ!」「おう!」
皆の声が一つとなって、戦場へと駆けだした。
ひたすらにまっすぐ右側のダンジョンへと走る寅二郎。
「邪魔だ!」剣の一振りで魔獣をまとめて斬り飛ばす。
その様を上から見れば、矢のように陣地を切り裂いていく。
「しかし、この数、異常だな」
シドも時に風魔法、時に短剣で魔獣を切り捨てていく。
それでもダンジョンの入り口はいまだ遠くに見える。
リラも詠唱を続けながら必死に後をついてくる。
しばらく無我夢中で敵を切り裂く寅二郎だったが、声を上げた。
「おい!あれだ。金虎族の族長だ」
シドが見ると、金虎族の族長が巨大な猪と切り結んでいる。
「おら!」寅二郎は猪の片足を斬り飛ばし、族長に背を預ける。
「おお!“勇者”殿か。助かる」猪を両断し、族長が言う。
「族長、魔王軍ってのは?」
「あちらに!」寅二郎の声に族長が敵陣へと剣を向ける。
見ると、右側のコアへの入り口、その前に“瘴気”を纏った二人組が見えた。二人とも額から角を生やし、口元に笑みを浮かべている。
「あれか!」寅二郎が剣を握り直したその時、
ウオオオオオッ!獣人たちの怒号が戦場に響いた。
「何だ?」
寅二郎がそちらを見ると、魔獣が次々と空へと舞い上がる。
まるで暴風が荒れ狂う様に突き進むそれ。
まっすぐに左側のコアへと向かっている。
その様に族長が叫ぶ。
「まさか!パトラ様、“白虎化”したのか!」
族長の悲壮な表情に寅二郎が尋ねる。
「“白虎化”?何だそれ」
迫る魔獣を斬り捨て族長が答えた。
「“白虎化”とはパトラ様の特殊スキル。
命を削り力を得る、禁忌の業で……」
族長の答えを最後まで聞かず、寅二郎が叫ぶ。
「くそったれぇ!」
握りしめる剣に白い光が絡みつき、光の柱と変じていく。
寅二郎は走り出し、剣を大上段に構える。
迫る魔獣が襲うに任せ、寅二郎は走り続け魔族に迫ると、
「とっとと消えてろ!」と光の柱を袈裟切りに振り抜いた。
魔族を含めた半円状、全てが二つに切り分けられていた。
「何と!」族長が声を上げるが、寅二郎は走り出していた。
目前の右では無く、左のコア、パトラの方へ――。
族長に追いついたシドが指示を飛ばす。
「族長!俺たちはこのまま右のコアへ!パトラはトラジロウに」
「あ、ああ」気を取り直した族長が剣を掲げ、叫ぶ。
「行くぞ!今こそ我ら金虎族の力を見せる時」
「おおおお!」金虎族の獣人たちも声を上げ、戦況は一気に変わった。
右のコアへ向け雪崩れ込む流れの中、
シドの目は寅二郎を追っていた。
(トラジロウ……)
一方、荒れ狂う嵐となって突き進む一匹の“白虎”、パトラは誰にも止められない。
その前足の爪で狼を跳ね上げ、その剝き出しの牙で猪を食いちぎる。
しかし輝くようなその白い毛並みは、灰色に明滅している。
(それでも!)と魔族の姿を捉えると、瞬時に嚙み殺していた。
「パトラ様!」必死で後を追ってきた侍従たち。
その前でパトラの姿が戻っていく。
白い毛並みが消え人型へと戻るパトラは、前のめりに倒れた。
「パトラ様!」
再び侍従が叫び、手に持っていた白いマントをかけ、抱きかかえる。
そこへ、寅二郎が駆け寄ってきた。
「パトラ!」寅二郎が声をかけると、パトラが微笑むが、
「トラジロウか…!」ゴポっと血を吐き出した。
「馬鹿野郎!お前が無茶してどうすんだ!」
寅二郎の必死の表情に、
血を吐きながら、それでもパトラは笑った。
「……お前の前では、カッコ悪い姿は見せられん」
そう言ってパトラは立とうとする。侍従の肩を借りながら。
その健気な、誇りの為に立たんとする姿に、
「馬鹿野郎」寅二郎は呟いていた。
「今だ!」「行くぞ」獣人たちが叫び左のコアへと押し寄せる。
その声を聞きながら、寅二郎は空を見上げるのだった。




