第一話 ルゼリアはつらいよ③
吹き抜ける風に血の匂いが混じる。
《双子の迷宮》を望む小高い丘の上にパトラは立っていた。
眼下に夥しい数の魔獣と戦う、獣人たちの姿が見える。
「厄介な」
パトラの目は迷宮の前に陣取る魔王軍を捉えていた。
パトラの後ろに金虎族の長老が跪く。
「戦況は膠着状態。
ですがあちらは無限とも思える物量。
このままでは……」
言い淀む長老にパトラが言った。
「分かっている。
ミレイアに救援要請を出した。
もうしばらく持ちこたえてくれ」
パトラは握る金の錫杖に力を込める。
(まずいな、皆の疲労もそろそろ限界。“アレ”を解放するしか無いか」
――“白虎化”。パトラに眠る獣人の力の開放。圧倒的な力を得る代わりに、確実にパトラの未来が削られる禁断のスキルだ。
長くパトラに侍る侍女たちの顔が蒼白となる。
そんな侍女たちに向けてか、パトラが呟く。
「何、どちらにせよ、ここを乗り切らねば私の寿命など意味も無い」
その言葉に侍女たちはなおも俯いてしまった。
重苦しい空気の中、剣戟の音が響くが、
「おい!パトラ大丈夫か」息を切らせた寅二郎たちが走りこんできた。
シドやリラも追いつき、肩で息をする。
そんな寅二郎たちを振り返り、
パトラが目を丸くする。
「何だ、ミレイアからの救援とはお前たちか」
「何だって何だよ。せっかく来てやったのに、ハァ」
ハァ、と息を吐き寅二郎が言う。
「お前たち、世界樹は?
魔王の居場所は……いや、そうだったな」
パトラも息を吐き、
「助かる」と言った。
「そうこなくちゃな!」寅二郎が笑い、
シドが眼下の戦場を見ながら言った。
「それで戦況は?《双子の迷宮》、何が問題なんです?」
「ああ、見てくれ」そう言ってパトラが指を差す。
「あそことあそこ、
あの距離で二つのダンジョンが並んでいる。
あれが《双子の迷宮》だ」
寅二郎は静かに、その二つに目を向けた。
「……なるほどな」
草原に並ぶ、二つのダンジョン、そして眼下に広がる戦場に――。




