第一話 ルゼリアはつらいよ①
何も見えない闇の中――
時に広がり時に縮むその闇の蠢きが、ここへ向かって流れ込んでいる。
「……始めるか」
その声が闇へと溶け出し、世界はいよいよ動き出した。
―――――
「世界樹へ行け!」
武聖トンペティの言葉に従い、
寅二郎たちはルゼリアへ馬車を走らせる。
《青環の神殿》の“スタンビート”鎮圧の報告のため国主マルセロの下へと赴き、専用馬車を用立ててもらったのだ。
「ふむ、世界樹へ行くのだな。
もはやこの事態、ヴァルニス一国の話では無い。
急げ、トラジロウ。
そして見極めよ、魔王の野望を打ち砕くために――」
マルセロの言葉を胸に、寅二郎は馬車の窓から眺めていた。
遠くに見え始めた世界樹を。
「こんな形で帰ってくるなんて……」リラが手を組み呟く。
「ああ、しかも世界樹の導きで魔王へと至る。こんなことになるとはな」
シドも腕を組むが、落ち着かない様子。
「焦ってもしょうがねぇよ。リラックスしろよ、リラックス。
リラちゅわん、何ならおっぱい、揉んでやろうか?」
「馬鹿」寅二郎の顔面にリラの拳が刺さる。
「あいたぁ!」いつもの雰囲気を感じ、シドが息をつく。
しかし、そんな寅二郎も懐のニューナンブに手を添えていたのだった。
その頃、世界各地では彼らの不安を裏付けるように異変が広がっていた。
それは国境も、種族も選ばない。まさに世界各国で――。
リ・エスティーネ王国内のギルド、受付のマロンは怒号飛び交う只中にいた。
「《灰哭の巣窟》に“スタンビート”の兆候、回せる冒険者はすぐ向かわせろ!」
(今ので三件目、これから何が起こるというの?……)
砂漠王国カルナードでは国王代理ジャファル・カルナードが指示を出す。
「すぐに冒険者たちをダンジョンへと向かわせろ!
リ・エスティーネ王国には勇者PTを救援に来るよう要請した。
アンナたちが来るまで持ちこたえるのだ!」
ガルディア帝国皇帝レギウス三世も、次々と上がる報告を受けていた。
「ふん、魔王ノクスめ、動き出したか……
よかろう、アレの実装すべき時が来たな。すぐに回せ」
傍に侍る三魔将《調律者》ハルモニアが「御意に」と頷いた。
ルゼリアのミラステラ宮殿へと戻ったトンペティ。
国主マルセロが眉を寄せながらも告げた。
「老師、《青環の神殿》から戻ってすぐで申し訳ないが……」
「構わん、このマナの異常な流れ。すぐ次へ向かおう」
と、マルセロに答えたトンペティは寅二郎を思う。
(頼んだぞ、トラジロウ)
世界中で異変に立ち上がる中、
寅二郎たちの乗った馬車がルゼリアの“フォレスト”へと停まった。
「行くか」
寅二郎は歩き出す。
"フォレスト"の奥に聳える世界樹。
まるで、その世界樹に呼ばれているかのように――。




