第九話 前兆はつらいよ⑥
コアの祭壇に向かう廊下、
廊下に満ちる禍々しい気配に寅二郎たちは声も上げず歩いていた。
しかし次第にサハギンの数が減ってきている。
「この奥じゃな」ようやくトンペティが声を上げた。
寅二郎たちも頷き、いよいよコアの祭壇の間へと足を踏み入れた。
「来たか」
黒く輝くコアが中心に鎮座する広間。
その傍に二つの影が立っていた。
その身から赤黒い煙のような“瘴気”が立ち上っている。
瘴気はまるで神殿の水の気配を汚すように広がっていく。
そしてそれらの額からは角が生えており、
笑みを浮かべるその口元からも瘴気が漏れる。
その、人を見透かすような視線を受け、寅二郎が剣を構える。
「魔族か」
シドやトンペティも身構えた。
その姿を見回し、魔族の一人が言った。
「遅かったな。仕上げは完了したぞ」
そのセリフに寅二郎たちに緊張が走る。
魔族は微笑みながらコアを見上げる。
コアは赤黒い瘴気をまき散らし明滅している。
その明滅する様はまるで心臓の鼓動の様で不気味だった。
しかも周りには触手のようなものが四方に伸びている。
「何だ、あれは?」シドが叫び指差す先、
コアから伸びた触手から黒い雫が垂れた。
雫が落ちた床から煙が立ち上り、何とサハギンが現れた。
「こ、これが“スタンビート”、魔物発生の瞬間か!」
「とにかく止るぞぃ!」トンペティのセリフと共に走り出す。
迫るトンペティに手を広げ、魔族が叫ぶ。
「来い!魔王軍ヴァルニス方面軍副指令、この激流の――」
ズガン、魔族に最後まで言わせずトンペティが殴りつける。
「お前らの名前なぞ興味は無い!」
吹き飛ばされる副指令を見て、もうひとりが飛び退る。
「もう流れは止まらん!
所詮我らは時間稼ぎ!遊んでもらうぞ!」
そう言いながら、両の手の平に炎の弾を浮かべる。
しかし、その魔族の後ろにはシドが屈んで待っていた。
「遊んでる場合じゃないんでな」短剣を切り上げ魔族の腕を飛ばす。
「とっとと寝てろ」と寅二郎が剣に光を纏わせ、魔族を両断した。
雫から生まれたサハギンを倒し、トンペティが言う。
「魔族は鎮圧したが、これはまずいのぅ」
そうしてトンペティは周りを見回し言った。
「感じるか?トラジロウ。
このコアの異常は点、
しかし巡るマナの異常はどこかへ線となって向かっておる」
確かに寅二郎も、マナの異常がここだけでは無いことを感じていた。
胸の奥で、世界樹に触れた時のように、何かが流れざわめいた。
「それなら、どこへ?
この異常な流れはどこへ向かってるんだ?」
トンペティはしばらく目を瞑っていたが、目を見開き言った。
「トラジロウよ、世界樹へ行け!
あそこならこの異常の行きつく先、魔王の居場所が分かるはず!」
トンペティのセリフで寅二郎の剣を握る手に力が籠る。
「しかし、トンペティは!」
再び現れたサハギンを切り裂き、シドが尋ねる。
四方に伸びた触手からは少しずつだが、まだ雫が堪っていく。
「この状態がいつまで続くか分からん。
お主ら先に戻り、冒険者たちを呼んできてくれんか」
「でも!トンペティお爺さんは?」リラが言う。
「儂はこう見えて“武聖”じゃよ?構わんから、早く行け!」
微笑み、腰に手をやるトンペティが言った。
「そうだったな!じゃぁ俺たちは行く。またな、師匠」
そうして、寅二郎たちは顔を見合わせ走り出した。
寅二郎たちの背中を見つめていたトンペティだが、ふと天井を見上げる。
(何じゃ?あのコアの真上、天井画か?
コアを守るように、……あれは、竜、なのか?)
こうして《青環の神殿》の“スタンビート”は制圧に向かう。
しかしこれはあくまで“始まり”であることを誰もが感じているのだった。




