第九話 前兆はつらいよ⑤
寅二郎たちの向かう先、
広間へ抜けるその前に立ちはだかる壁。
廊下を塞ぐ巨大なそれは――。
「グランドタイマイ、じゃな」
トンペティのセリフに答えるように“壁”が咆哮を上げた。
ガアアアアッ!
ゴツゴツと強靭そうな顎を開き咆哮を上げ、背中は巨大な甲羅に覆われている。
石柱の様に太い四肢がこちらへと歩を進めだす。あまりに巨大な亀だ。
「でけぇな」
まさに壁が迫るような圧に、寅二郎が呟く。
「それでも目的地はこの先じゃ。行くぞ!」
トンペティが再び走り出す。
「風よ!」シドが風魔法のナイフで目を狙い、
「しゃぁねぇか!」寅二郎が剣で脚を狙う。
キキイイィン!
金属がぶつかる様な音を立て、二人の攻撃が弾かれる。
「ちぃ」「硬ぇな」二人は距離を取り直し、
「喰らえ!」トンペティの一撃がグランドタイマイの顎に炸裂した!
ゴガンっと音を立て顎が欠ける。
グルルと声を上げるタイマイだが、その歩みは止まらない。
「遊んどる暇は無いんじゃがの……」
トンペティも下がり、構え直す。
そして腰を落とし、深く息を吸い込んだ。
その様子を見た寅二郎が叫ぶ、
「師匠、溜める気か、おいシド!」
「ああ」寅二郎とシドはタイマイへと走り出す。
少しでもその歩みを止めようと、ひたすらに斬りつける。
それでも止まらず、いよいよタイマイはトンペティの目の前に。
トンペティを食いちぎろうかと顎を開いた。
タイマイの顎が迫るその瞬間、
トンペティにリラのバフ《ストレングスアップ》が降り注ぐ。
「待たせたの」
トンペティがそう言うと、光が渦巻く拳を振り抜いた!
ガオン!
巨大な杭を打ち付けたような音が響き、
顎を砕かれたタイマイが吹き飛ぶ。
広間に満ちたサハギンの群れをまとめて薙ぎ倒すのが見えた。
「オシ!やったな」寅二郎たちが広間へ進む。
しかし、
「おいおい、まだか」シドが短剣を再び構える。
見ると小山の様なグランドタイマイの他にも大きな影が。
ゲル状の光る肌をした触腕が蠢き、
大きな袋の様な頭、
その両側に大きく光る眼が見えた。
「亀の次はタコかよ!」寅二郎が叫ぶ。
その異様な動きに距離を取り、剣を構える。
「グランドオクトパス、じゃな」と、トンペティも構える。
「雷よ」シドがお試しとばかりに雷魔法を放つ。
その雷はぬめぬめした肌で弾かれたように見え、効果は薄そうだ。
しかも奥から再び、サハギンの群れがやってくるのが見える。
「来るぞ!」
シドの叫びと共に広間は一気に混戦となり、各地で剣戟の音が響く。
しかも奥から奥から、影が増えていく。
「打撃では効果が薄いのぉ」
グランドオクトパスの触腕を躱し、
その腕を叩きつけたトンペティが嘆いた。
「まずはこのゲル状の肌を何とかせんと。
しかし今はマナを溜める時間も……」
後ろから突き出されたサハギンの槍を躱し、距離を取る。
「一か八か!シド、あそこに火の魔法を」
寅二郎が触腕を指差し、叫ぶ。
シドはすかさず頷くと手をかざした。
「炎よ!」シドの手から火球が飛び、触腕に着弾。そこへ、
「おらあ!」走り寄った寅二郎が剣を切り上げる。
スパン、綺麗に剣が抜けた音がして、触腕が飛んでいく。
「タコは、ぬめりを取ってから料理するもんだぜ!」
「なるほど、“重ね”ということか」
トンペティが再び拳を握る。今度は小刻みに振動している。
その間もシドの炎魔法に合わせ、寅二郎がオクトパスを切り刻む。
そして、トンペティにマナが満ちるのを感じ寅二郎が叫ぶ。
「任せたぜ!師匠」
寅二郎が飛びのいた、その後ろにトンペティの姿。
「ハッ!」気合一閃、トンペティが拳を振り抜いた。
グランドオクトパスに着弾すると、オクトパスの体が波打った。
次の瞬間――。
ドパっと音を立てオクトパスは爆散しつつ吹き飛んだ。
「ふう」寅二郎たちがサハギンたちを倒し、その身に《ヒール》の光。
「ようやく一段落じゃな」トンペティも息をつく。
「タコの刺身で一杯やりたい気分だな」
寅二郎のセリフにシドやリラは苦笑いを浮かべるが、
「これからが本番。それを忘れるでないぞ」
トンペティも笑っていたが、その目はその奥、コアへと向いていた。
コアの祭壇へと向かう廊下、その奥からマナの乱れが確実に漂って来ていた。




