第九話 前兆はつらいよ①
魔王の居場所、
その手掛かりとなる前兆は無いかと、
ヴァルニスのギルドへ通う寅二郎一行。
「なかなか魔王に繋がる依頼と言ってもな…」シドが唸る。
「平和ならそれでいいじゃねえか」いくつか依頼を眺めながら寅二郎。
「もう、緊張感が無いわね。トラジロウは」リラはため息をついた。
そんな中、入口の扉が開きギルド職員らしい男が、
一心不乱に二階へと駆け込んでいった。
「何だ?」シドだけでなく、ギルドにいたすべての者が騒めいた。
男が受付に戻り、声を上げた。
「サエキ・トラジロウさんはいらっしゃいますか?トラジロウさんは!」
「面倒なことになりそうだな」そう言って腰の引ける寅二郎。
「馬鹿!」そう言われシドリラキックを尻に喰らう。
ドスっという音と共に、寅二郎は受付に立った。
「俺が寅二郎だ」
尻をさすりながら受付に言う寅二郎を遮り、受付の男が叫ぶ。
「ああ、トラジロウさん!急いで国主マルセロの下へ。
武聖トンペティもすでに向かっているはずですから……」
そして、男は続けて言った。
「ギルド内の冒険者の皆さんも待機でお願いします!
《青環の神殿》にて“スタンビート”の兆候有り!
皆さんの協力をお願いすることになるかもしれません!」
「スタンビート!」「まさか《青環の神殿》で?」ギルド内が騒然となる。
「いよいよ、かもしれないな」シドは眉間にしわを寄せ、
「トンペティさんが動くなら、そういう事だよね」リラも不安げだ。
「まぁ行くしかねえな」
寅二郎も歩き出した。
帝国からこちら、左脇に装備されたままお守りと化したニューナンブ。
無意識にそこへ手をやったまま。
ヴァルニスの首都、
ミラステラ宮殿では国主マルセロが玉座に座ることもせず、
立ったまま待っていた。
(トンペティ、まだか!)
入口を見つめるマルセロは、理由もなく、胸の奥がざわつく。
まだ大した被害も出ていない。それが、かえって不気味だった。




