第八話 勇者PTルゼリアへ行く⑥
アンナたちは世界樹に触れ、
その世界に流れるマナの一端を共有した。
そして大きく、温かい流れに心を揺さぶられ、
しばらく世界樹を見上げ続けていた。
しかし、巨大な世界樹を見回していたリルルが声を上げた。
「あれ?あそこ何か変じゃない?」と、世界樹の一点を指差した。
見ると、世界樹の幹に大きく傷がついていた。
「ミレイア様、あれは?」
アンナたちがミレイアを振り返ると、彼女の眉間には深い溝が刻まれていた。
しばらく俯いていたミレイアだったが、そっと顔を上げ言った。
「それに答える前に、
少しついてきてもらいたい場所があります。
よろしいですか?」
と皆の答えも待たずミレイアは歩き出してしまった。
気まずい空気の中、アンナたちも後をついて歩き出した。
「私まずいこと言っちゃったかな?」リルルは恐縮している。
「とにかく付いていくしかないな」アリアはリルルの肩に手を置いた。
(あの雄大な世界樹に残るあの傷、何があったというの?)
アンナは何か心の奥に重いものが乗るのを感じていた。
林に入ってしばらく、ミレイアが立ち止まった。
そこはぽっかりと林が途切れた広場、浅い窪地となっていた。
草一つ生えていない。
アンナたちが立ち止まると涼しく風が吹き抜けた。
「なんだか寂しい場所に出てきたけど……」リルルが辺りを見回す。
「ああ、何か体感温度も下がったような」アリアが自分の肩を抱いた。
「あそこに何かあるわね」そう言って、ヤスコはある一点を指差した。
「何かを掘った後の様に見えますね」ユキナのセリフと共に皆歩き出した。
「ミレイア様、ここは一体?」アンナはミレイアに振り返る。
ミレイアは皆が見ていた穴のようなものを見つめながら言った。
「ここは“欲望の果て”と呼んでいます。
この穴の向こう、窪みは昔、池だったと言われています」
「“欲望の果て”?」
「池?水も何も見えないが……」
アンナたちは困惑し、お互い顔を見合わせている。
「その昔、世界樹を株分けしようとした者がおり、
その結果ここは枯れ果てたのです」
「その株分けしようとしたのが……」アンナはごくりと唾を飲んだ。
「そう、大昔の人族だったのです」
ミレイアの言葉に、アンナたちは背中に汗が噴き出すのを感じた。
何も言えず立ち尽くすアンナたちに、ミレイアはなおも言った。
「“前を向いて歩き続ける”、それ自体は悪いことでは無いのでしょう。
しかし、飽くなき欲望はこういった事態を引き起こす。
この場所、そして世界樹に刻まれた消えない傷――」
ミレイアは皆を見据え、続けた。
「これらを見て、あなたたちは何を思いますか。何が出来ますか」
ミレイアの問いに、アンナたちは何も言えなかった。
ただ立ち尽くし、流れる風がいよいよ冷たく感じられるようになってきた。
「日も陰ってまいりましたね。そろそろ……」
ミレイアがそう言って歩き出そうとしたその時、
「ミレイア様、もう少しだけ時間をいただけませんか」
アンナは何かを探すように歩き出した。
そして、両手で抱えるように石を持って帰ってきた。
「せめて、これを……」
アンナはその石を株分けしたという、穴の上に置いた。
そして《暁の翼》の面々と共に石の周りを整えた。
「“お墓”のつもりですか?」
「はい、私たちは過去の過ちを無かったことには出来ません。
いえ、してはいけないと思います。
ですからせめて、こうして祈らせていただきたいと思います」
そう言って、アンナたちはその石に祈りを捧げた。
「お待たせしました」そう言って振り向いたアンナに、
「そうですか。……ありがとう。
その答えを、私はずっと待っていたのかもしれません」
と、ミレイアは微笑みを向けた。
ミレイアのその笑顔は、アンナの見た中で一番綺麗に見えたのだった。
そしてその時、世界樹からは、そっと一枚葉が落ちた――。




