第八話 勇者PTルゼリアへ行く③
謁見の間には不思議な雰囲気が流れている。
とても静かだ。
国主ミレイアは笑顔でアンナたちを眺めて立っている。
しかし対するアンナは何やら緊張している様子。
アンナのその姿に友好使節団のメンバーは怪訝な表情を浮かべる。
「ちょ、ちょっとアンナ」ヤスコが後ろから小声でささやく。
「あ、すみません。ちょっと緊張してしまって」アンナが頭を下げる。
「いえいえ、私もあなたに興味がありすぎて、つい注視してしまいましたね」
ミレイアはアンナから視線を外し、友好使節団皆へ向け言った。
「今宵は歓迎の宴を催します。
旅の疲れを癒して後、明日世界樹へとご案内したいのですがいかが?」
ミレイアの提案に困惑が広がる。
黙っていたエルザだったが思わず声を上げた。
「予定では調印式が執り行われるはずでしたが?」
エルザを制そうと立ち上がるアンナに、ミレイアが言った。
「アンナ、良いのです。確かに予定ではそうなっていましたね。
ですが、私たちの国のことを知っていただきたいのです。
五大国の皆さんに、そして“勇者”アンナに――」
あくまで笑顔を絶やさぬミレイアに、アンナは笑顔を返した。
「分かりました。私たちも“友好”の使節。
皆さんの事をもっと良く教えていただきたいと思います」
「ありがとう、アンナ。今宵の宴も楽しみになりました。それでは後ほど」
ミレイアの合図で案内の兵士が謁見の間へと入ってきた。
「皆様に部屋を用意しております。どうぞそちらへ」
「お心遣い痛み入ります。お言葉に甘えさせていただきます」
アンナたち友好使節団一行は立ち上がり、
案内の兵士と謁見の間を退出する。
アンナが扉を抜けようか、という背中に呟きが聞こえた。
「ふむ、あれが“もうひとりの勇者”か」
アンナはドキリと胸が跳ねた。
振り返ろうとしたが扉が閉まってしまった。
(もうひとり?もしかして、トラジロウ?
トラジロウを知っているの?……)
アンナは用意された部屋へ入り扉を閉めても、
いつまでも胸にざわめきが残るのだった。
そして夜、“フォレスト”のテラス部分に特設会場が設えられた。
世界樹を背に、リュゼリオンが一望出来る。
月の光に照らされた城下、家々の明かりがキラキラと輝いて見える。
「とても素敵な場所ですね。ずっと見ていられます」
「ふふふ、嬉しいセリフですね。ですが料理も自慢なのですよ」
アンナとミレイアが上座のテーブルへと座っている。その他いくつもテーブルが配置され使節団とルゼリアの人々が語らい酒を酌み交わしている。
「この鳥料理美味しい」
「私が狩ってきたのですよ」
「この果実も新鮮で」
「それで作った酒は逸品でな。さぁ吞め呑め」
《暁の翼》や使節団たちとルゼリアの人々が同じ卓を囲み、楽し気な様子。
そんな光景にアンナとミレイアも微笑み見つめあう。
「この光景が世界中に広がるといいのですが……」ミレイアは言い、
「私もそう思います。そのためにこの“勇者”の力、振るうつもりです」
アンナは応え、乾杯、と杯を重ねた。
アンナはまだ知らなかった。ミレイアが言葉の最後を濁した意味を――。




