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異世界はつらいよ~転生勇者放浪記~  作者: 花京
第六章 商業都市国家群ヴァルニス編
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第七話 買い物はつらいよ③

 ある日の朝、

 シドが起きてもまだ寅二郎が部屋に帰っていなかった。


「昨日、トラジロウはだいぶ酔っぱらってて。私たち先帰っちゃったよね」

「ああ、『今夜は寝かせねぇぞ』だか煩くて、ほっぽって来たんだ」

 シドやリラが部屋で話していると、扉が開いた。


「おう、今戻ったよ」


 シドとリラが振り返ると寅二郎。

 と見知らぬ女性が隣に立っていた。


「?」「こちらは?」シドが尋ねると寅二郎が、


「買った」


 その瞬間、シドとリラが寅二郎に襲い掛かった!

「ちょ、ちょっと待て」「この馬鹿!」「お前はついにそこまで!」

 寅二郎の話す間など与えず、ボコボコ。漫画の様に煙が立ち上る。


 そんな地獄絵図の最中、小さく声が聞こえた。


「違うんです……」


「!?」シドとリラの手が止まる。血だらけの寅二郎が倒れる。


「トラジロウは助けてくれたんです」


 続けられた言葉にシドとリラが息を呑み、寅二郎は、

「もちっと早く言ってくれ」倒れたままで涙を流した。


 女性の名はルールー。

 この街で娼婦をしているという。

 娼婦と聞いてリラの胸が小さく跳ねる。


「この街の娼館で働いていたんだけど、その店、全員奴隷を使っていたの」


「この街でも奴隷は禁止されているだろう?」シドが言う。


「ええ、だけど私も元奴隷。裏じゃこんな話、よくあるみたいよ」

 すっとルールーが視線を落とす。


「それで?」


「ええ、それでその店がお上に見つかっちゃったみたい。

 昨日の夜にいきなり兵士が雪崩れ込んできたの。

『この店は取り潰しだ』って」


 寅二郎がようやく立ち上がる。


「店の前まで騒ぐから、何かなって覗いたらそんな有様。

『この店潰されたら私たちどうなるの?』『知らん!』

 そんな剣幕だったから、『この店ごと俺が買う!』って言ってやったんだ!」

 自慢げに鼻の穴を膨らませる寅二郎。


「まぁ事情はわかったけど……」

「そうだな。実際問題、店ごと買うような金は無いぞ?」

 リラやシドも心配そうな表情を浮かべたが、


「勢いで『俺が買う!』なんて言っちまったが、

 いい考えがあるんだ!」寅二郎は元気いっぱいに出て行った。



 寅二郎が向かったのは、

 師匠トンペティの拠点である本家“武聖楼”だった。

 そしてそこに、絶叫がこだました。


「なんじゃとぉ!娼婦どもを買い取れと!」


 とりあえず頭を殴られ、

 涙目で頭をさすりながら寅二郎が言った。

「まぁまぁ、悪い話じゃないって、師匠。あれをこうしてな……」

 寅二郎の耳打ちに、ふむふむと耳を貸すトンペティ。



 数日後、娼館だった場所は改装されていた。

 看板には《武聖酒場》。


 夕暮れ時、店の中ではルールーを挟み、

 寅二郎とトンペティが酒を酌み交わしていた。


「なるほどのぅ。綺麗なおなごと酒や会話を楽しむ場所、か」

「俺の故郷じゃ"キャバクラ"って呼ぶんだ。楽しいだろ?」

「おうおう、酒がすすむのう」


「二人とも、ありがとう。

 おかげで私たち何とか生きていけそうよ。

 お金だっていつかちゃんと返して見せるわ」

 ルールーが笑顔でトンペティに酌をする。


「金? ああ、心配するな。高い授業料じゃったが、

 まぁ……命までは取られん。わしゃ毎日通ってしまうかものぉ」

 トンペティが笑顔で酒を掲げる。


 賑やかな店内、トンペティの門下生たちも楽しそうだ。


「お客様、キャストへのおさわりは厳禁です」

 シドに手を叩かれたトンペティが、叫びをあげる。


「あいたぁ!」


(みんな笑ってる……。

 あの日、私が欲しかったのも、きっとこんな居場所だった。)

 リラはちびりと酒に口をつけた。


 こうして《武聖酒場》は賑やかな夜を明かすのだった。


 そんな光景を見ながら、寅二郎は苦笑いで言う。


「なかなか、自由ってのも金がかかるな」

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