第七話 買い物はつらいよ②
翌朝、寅二郎たちは早朝からギルドへと赴いたが、
“これだ”と言える依頼を見つけられずにいた。
「選り好みしているわけじゃないけど……」
「ああ。魔王捜索に繋がる依頼を受けたいところだからな」
「まぁ金には多少余裕あるんだろ?焦らず行こうぜ」
寅二郎たちはそう言いながら、
商店の立ち並ぶ区画へと足を踏み入れていた。
武器や防具の店が並び、
冒険者たちの姿も多くみられた。
「ふむ、この辺りは装備品の店が多そうだ。
せっかくだから、俺たちもいいのがあれば買い足してもいいかもな」
シドがそう言って店前に置かれた短剣に目を向けている。
「私は、武器っていってもなぁ」
リラは気乗りがしないのか、あちらこちらへ目を振っている。
「あれ?ここは」リラがそう言って目を留めたのが、
《古物商:誠之助》と書かれた一軒の古びた店だった。
屋根に瓦を葺いており、
店前には陶器の置物が置かれている。
「へぇ。何だかいい雰囲気の店だな」
和風の外観に惹かれたのか、寅二郎も楽し気に店の前に立つ。
「では覗いてみようか」シドもそう言い、三人で店へと入った。
引き戸をくぐり中へ入ると、
「いらっしゃい」低く小さな声が聞こえる。
書画や置物、刀剣に鎧など幅広く所狭しと陳列された店内の奥に店主がいた。
「何かお探しかな?」片眼鏡に白い顎髭を蓄えた店主が言った。
「いや、特段これといったものは無いんだが……」シドが答える。
「何だかお店の雰囲気に惹かれちゃって……」リラが微笑む。
「俺らは冒険者なんだが、何か装備でも買い替えようかってな」
寅二郎が陳列された刀剣などに目をやる。
「お前さんの腰のもの。
バスタードソードじゃないか。
それで十分だろう?」
「まぁな。こいつには随分助けてもらってる。
しかし、この刀ってのも思い出があってな。つい見ちまうんだ」
「ほう」そう言って店主が目を細める。
「俺はここの店主でセーノスケという。世襲制でな。店主は皆この名を継ぐ。
まぁそんなことはどうでもいいんだが、刀の思い出ってのを聞いてもいいか?」
そう言うセーノスケは前のめりで聞いてくる。
「そんな大した話じゃないが、俺の祖父ちゃんが剣道の道場主でな。
俺が警察、官憲のほうが分かるかな。そこへ就職することになった時、
俺に刀を持たせてな、居合抜きってのを教えてくれたんだ」
寅二郎の昔語りに、皆聞き入っていた。
「こう腰だめに構えてな。鞘に入ったままの刀を握り集中する。
ここだって瞬間に刀を抜きながら目の前の藁束を切るんだが、
難しいんだ、これが。
抜き取るだけでも中々大変で、藁束に当たるとひっかっちまう」
寅二郎が身振りで再現する。
「で、祖父ちゃんが言うんだ。
“居合はな、抜くんじゃない。走らせるんだ”
そう言って祖父ちゃんがやると、
こう“シュバ”って感じで藁束を真っ二つ。
あれはかっこよかったな」
嬉しそうに自分の失敗談を話す寅二郎を見て、
「ちょっと待ってろ」と言い残し、セーノスケは奥へと消えた。
寅二郎たちが首を傾げ待つことしばし、
セーノスケは鞘に入った刀を持っていた。
「この刀は“敵無し”と言われる逸品。
のはずなんだが、どうにも抜けなくてな。
今は埃をかぶって眠ってるんだ」
「“敵無し”!それはまた」シドが目を見開く。
「埃のせいか随分古そうだね。あ、ごめんなさい」リラは口を押え謝る。
「いや、実際倉庫で眠ってたんだ。謝る必要は無い」
そう言って手を振ったセーノスケは、
「ふん……っ」と力を込める。
鯉口は切れる。
だが刀身は指一本分も現れない。
「ほらな。こんな調子だ。
錆びてるわけじゃないんだが、
まるで鞘ごと空間に縫い付けられているかのようでな。
どうにも抜けん」
セーノスケは刀を持ち直し寅二郎に差し出す。
「抜けたら、お前さんにやる。どうだ?」
「おいおい、そんな簡単に」
「このまま倉庫で朽ちさせるくらいなら、
使える奴に持っていてほしい」
とセーノスケは寅二郎を見据える。
「それに“抜けたら”って話だ。
中庭でちょっとやって見せてくれ」
そう言って歩き出したセーノスケに、三人も後に続いた。
「藁束も用意した。やってみてくれ」
セーノスケに連れてこられた中庭。
うっすらと陽の光が差し込むそこに藁束が立っている。
寅二郎は“敵無し”を腰に佩き身構える。
どこからか風が通り過ぎていく。
周りの音が止んだ瞬間。
――『居合はな、抜くんじゃない。走らせるんだ』
寅二郎は“敵無し”を抜き放っていた。
陽の光を受けた"敵無し"。
刀身には、ゆらめく炎のような刃紋が浮かんでいた。
「これは……」「綺麗」シドやリラが見惚れる。
パサっ
少し遅れて藁束が地に落ち音を立てた。
「そいつはお前さんのもんだ。持って行ってくれ」
セーノスケはそう言って微笑む。
「……あれ?今、俺すげぇカッコよくなかった?」
寅二郎はそう言って鞘に納めた。
「もう」「台無しだよ」シドリラキックをくらわせる二人。
「抜けたらどうしよう、とは思ってたんだがな」
そう言って見送るセーノスケはずっと笑顔だった。




