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異世界はつらいよ~転生勇者放浪記~  作者: 花京
第六章 商業都市国家群ヴァルニス編
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第七話 買い物はつらいよ②

 翌朝、寅二郎たちは早朝からギルドへと赴いたが、

 “これだ”と言える依頼を見つけられずにいた。


「選り好みしているわけじゃないけど……」

「ああ。魔王捜索に繋がる依頼を受けたいところだからな」

「まぁ金には多少余裕あるんだろ?焦らず行こうぜ」


 寅二郎たちはそう言いながら、

 商店の立ち並ぶ区画へと足を踏み入れていた。


 武器や防具の店が並び、

 冒険者たちの姿も多くみられた。


「ふむ、この辺りは装備品の店が多そうだ。

 せっかくだから、俺たちもいいのがあれば買い足してもいいかもな」

 シドがそう言って店前に置かれた短剣に目を向けている。


「私は、武器っていってもなぁ」

 リラは気乗りがしないのか、あちらこちらへ目を振っている。


「あれ?ここは」リラがそう言って目を留めたのが、


《古物商:誠之助》と書かれた一軒の古びた店だった。


 屋根に瓦を葺いており、

 店前には陶器の置物が置かれている。


「へぇ。何だかいい雰囲気の店だな」


 和風の外観に惹かれたのか、寅二郎も楽し気に店の前に立つ。


「では覗いてみようか」シドもそう言い、三人で店へと入った。


 引き戸をくぐり中へ入ると、

「いらっしゃい」低く小さな声が聞こえる。


 書画や置物、刀剣に鎧など幅広く所狭しと陳列された店内の奥に店主がいた。


「何かお探しかな?」片眼鏡に白い顎髭を蓄えた店主が言った。


「いや、特段これといったものは無いんだが……」シドが答える。

「何だかお店の雰囲気に惹かれちゃって……」リラが微笑む。

「俺らは冒険者なんだが、何か装備でも買い替えようかってな」

 寅二郎が陳列された刀剣などに目をやる。


「お前さんの腰のもの。

 バスタードソードじゃないか。

 それで十分だろう?」


「まぁな。こいつには随分助けてもらってる。

 しかし、この刀ってのも思い出があってな。つい見ちまうんだ」


「ほう」そう言って店主が目を細める。


「俺はここの店主でセーノスケという。世襲制でな。店主は皆この名を継ぐ。

 まぁそんなことはどうでもいいんだが、刀の思い出ってのを聞いてもいいか?」

 そう言うセーノスケは前のめりで聞いてくる。


「そんな大した話じゃないが、俺の祖父ちゃんが剣道の道場主でな。

 俺が警察、官憲のほうが分かるかな。そこへ就職することになった時、

 俺に刀を持たせてな、居合抜きってのを教えてくれたんだ」


 寅二郎の昔語りに、皆聞き入っていた。


「こう腰だめに構えてな。鞘に入ったままの刀を握り集中する。

 ここだって瞬間に刀を抜きながら目の前の藁束を切るんだが、

 難しいんだ、これが。

 抜き取るだけでも中々大変で、藁束に当たるとひっかっちまう」


 寅二郎が身振りで再現する。


「で、祖父ちゃんが言うんだ。

“居合はな、抜くんじゃない。走らせるんだ”

 そう言って祖父ちゃんがやると、

 こう“シュバ”って感じで藁束を真っ二つ。

 あれはかっこよかったな」

 嬉しそうに自分の失敗談を話す寅二郎を見て、


「ちょっと待ってろ」と言い残し、セーノスケは奥へと消えた。


 寅二郎たちが首を傾げ待つことしばし、

 セーノスケは鞘に入った刀を持っていた。


「この刀は“敵無し”と言われる逸品。

 のはずなんだが、どうにも抜けなくてな。

 今は埃をかぶって眠ってるんだ」


「“敵無し”!それはまた」シドが目を見開く。


「埃のせいか随分古そうだね。あ、ごめんなさい」リラは口を押え謝る。


「いや、実際倉庫で眠ってたんだ。謝る必要は無い」

 そう言って手を振ったセーノスケは、


「ふん……っ」と力を込める。


 鯉口は切れる。

 だが刀身は指一本分も現れない。


「ほらな。こんな調子だ。

 錆びてるわけじゃないんだが、

 まるで鞘ごと空間に縫い付けられているかのようでな。

 どうにも抜けん」


 セーノスケは刀を持ち直し寅二郎に差し出す。


「抜けたら、お前さんにやる。どうだ?」


「おいおい、そんな簡単に」


「このまま倉庫で朽ちさせるくらいなら、

 使える奴に持っていてほしい」

 とセーノスケは寅二郎を見据える。


「それに“抜けたら”って話だ。

 中庭でちょっとやって見せてくれ」


 そう言って歩き出したセーノスケに、三人も後に続いた。


「藁束も用意した。やってみてくれ」

 セーノスケに連れてこられた中庭。

 うっすらと陽の光が差し込むそこに藁束が立っている。


 寅二郎は“敵無し”を腰に佩き身構える。

 どこからか風が通り過ぎていく。


 周りの音が止んだ瞬間。


――『居合はな、抜くんじゃない。走らせるんだ』


 寅二郎は“敵無し”を抜き放っていた。


 陽の光を受けた"敵無し"。

 刀身には、ゆらめく炎のような刃紋が浮かんでいた。


「これは……」「綺麗」シドやリラが見惚れる。


パサっ


 少し遅れて藁束が地に落ち音を立てた。


「そいつはお前さんのもんだ。持って行ってくれ」

 セーノスケはそう言って微笑む。


「……あれ?今、俺すげぇカッコよくなかった?」

 寅二郎はそう言って鞘に納めた。


「もう」「台無しだよ」シドリラキックをくらわせる二人。


「抜けたらどうしよう、とは思ってたんだがな」

 そう言って見送るセーノスケはずっと笑顔だった。

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