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異世界はつらいよ~転生勇者放浪記~  作者: 花京
第六章 商業都市国家群ヴァルニス編
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第七話 買い物はつらいよ①

 トンペティたちと別れ、

 寅二郎たちはミラステラのギルドへ向かっていた。

 見上げるとその先にはミラステラ宮殿。

 目の前にはずらっと市が立ち並ぶ。

 そんな区画へと足を踏み入れていた。


 道の両側には、カラフルな日よけ布を張ったバザールの露店。色鮮やかな布地、銀細工、ガラスの香油瓶が太陽光に反射して眩しい。


「あの店で水着を買ったんだ」リラが嬉しそうな声を上げる。

「ああ、あの店だったな」シドも何やら感慨深そうな表情だ。

 シドリラの笑顔に寅二郎も釣られ、微笑みを浮かべている。


「ちょいとそこのお兄さん!」


 元気の良い声に寅二郎が振り返ると、

 満面の笑みで女性が手招きしている。

 橙色の髪を後ろに束ね、

 ダボっとしTシャツに短パン姿。

 元気溌剌といった印象だ。


「ええから、こっち来てみぃ。ええもんあるでぇ」

 足元にシートが敷かれ、両脇に棚。露天商の様だ。


「おお!元気がいいな、もっこり姉ちゃん」

 寅二郎は誘われるまま、ふらふらと店の前に立っていた。


「うちはな、タマ!ミラステラ一の雑貨商なんや!」


 何が面白いのか、

 タマは腰に手をやり、

 ハッハッハと一人爆笑している。


「ふうむ、雑貨商ねぇ」


 寅二郎が品ぞろえを見ると、アクセサリーや筆記具、シャツなどの衣服に置物。確かに節操がない。しかもどの品もデザインが“個性的”だった。


「タマ、こりゃ何だ?」寅二郎がたくさんの棘の生えた棒を持ち上げる。


「兄さん、お目が高いな!それは靴ヘラや。

 何と!立ったまんまで靴が履けるんやで!」


 明らかにヘラの部分も棘だらけ。

 これで履いたら血だらけになるだろう。

 そんな微妙な商品を楽しそうに次々と説明するタマ。


 寅二郎は飽きてきたのか、何やら呟く。


「よし、集中しろ。あのTシャツのむこうにもっこりが……」

 どうやら透視を試みている様だ。

 ぶつぶつ呟く寅二郎にタマが言った。


「おお!兄さん。ほんまお目が高い!

 このTシャツなぁ、新作やねん。兄さんにもピッタリや!」


 タマがいそいそとTシャツを取り出し、寅二郎へと差し出してきた。

 そこへシドとリラがやって来た。


「こんなところにいたのか」

「何々?何を買うの?」


「お!兄さんのお連れさんかい?べっぴんさん引き連れて豪気やなぁ。

 ほな、このTシャツ、お買い上げでええんやろ。はい、お買い上げぇ」


 タマの勢いに乗せられ、寅二郎はTシャツを買っていた。


「お?トラジロウ、Tシャツを買ったのか」

「ねぇねぇ見せて。何か絵が描いてあるね」


 寅二郎がTシャツを広げる。白地で胸の正面に絵が描いてある。


「目が合うと不安になる顔」皆の意見をリラが一言で表現した。


 寅二郎たちに沈黙が流れるが、

「これさえ着てれば厄除け効果満点!やで!」

 タマがまた爆笑しながら言い放った。


 爆笑を続けるタマをそのままに、

 寅二郎たちは無言で歩き出した。


「魔力の反応も全く無いぞ。こんなものどうしろと……」


「まぁ慣れれば可愛い、かも……よ」


 シドやリラの視線に耐えられなくなったのか、

 寅二郎は路地へと入ると服を脱ぐ。

 遠くからまだタマの声が聞こえてくる。


「兄さーん!返品不可やで!」


「いいんだよ!厄除けなんて気のもんなんだよ!こうすりゃ効果抜群だ」

 寅二郎は開き直ったのか、

 そのTシャツを着こみ、大きく手を振って歩き出すのだった。


夕刻、寅二郎たちはギルドを出てきた。めぼしい依頼が無かったのだ。


「こういう日もあるさ」

「うん、お金も余裕あるしね」

「なあ、酒飲みに行こうぜ。酒」


 寅二郎のセリフにため息をつき、宿へと帰るその途中。


 路地裏で男女の言い争う声が聞こえてきた。


「てめぇ、よくもこんなもん売ってくれたな!」

「痛い、痛いって。兄さんら、返品不可やって」


 寅二郎たちが路地裏へと入ると、昼会ったタマが三人組に襲われている。

 寅二郎はタマに掴みかかっている男を突き飛ばす。


「何だ!てめえら」男たちが騒めく。


「おいおい、それくらいでやめてやれよ。大の男が、三人がかりでよ」

 寅二郎はタマと二人の男の間に入る。


「昼間の兄さん!助かるわ」


「この女、こんな効果の無いTシャツを売りつけやがったんだぞ」

 二人は前を開き、あの謎Tシャツを見せつける。


「これは」「あらら」シドとリラは唖然の表情。


「こいつを着ても、碌な仕事にありつけやしねぇ。腹が立つだろうが!」

「それは八つ当たりやで」タマは火に油を注ぐ。


「このアマ!」突き飛ばされていた男が激情しナイフを投げてきた。


「危ない!」リラが叫ぶ。


 タマが目を瞑る。その前に寅二郎がそっと立ちふさがる。


キンっ


 しかし、ナイフはあらぬ方向、壁に当たって音を立てた。


「はは!このTシャツ、ご利益あるじゃねぇか」


 寅二郎は笑いながら胸甲を外す。

 胸の謎キャラを見せつけながら男へ走り寄り殴りつけた。


 その間に、シドも二人の男へと迫り昏倒させていた。


「さて、タマ。こいつらどうする?」男を引きずりながら寅二郎が言った。


 目を覚ました男たちが震える。

 その姿を見ながらタマが言った。


「まぁこちらも?ちょっとした手違いが?あったみたいやし?堪忍したって」


 おずおずと引き上げていく男たちを見ながら寅二郎が言った。


「大判振る舞いだな。それじゃ商人、儲からないぞ」


「ええんや。おかげで兄さんらと会えた。

“縁は買ってでも繋げ”商売の鉄則やで。

 ほな、ありがとうな。助かったわ。またどっかでな」

 そう言ってタマは帰っていった。



「“縁は買ってでも繋げ”か、いい言葉じゃねえか」寅二郎は微笑み、

「ふふ、トラジロウ、また変なもの買わないでよ」

「厄除け効果は気分次第か、はは、そうかもな」


リラやシドも微笑みながら、酒場へと入り、

あの謎キャラTシャツを肴に酒を酌み交わすのだった。

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