第七話 買い物はつらいよ①
トンペティたちと別れ、
寅二郎たちはミラステラのギルドへ向かっていた。
見上げるとその先にはミラステラ宮殿。
目の前にはずらっと市が立ち並ぶ。
そんな区画へと足を踏み入れていた。
道の両側には、カラフルな日よけ布を張ったバザールの露店。色鮮やかな布地、銀細工、ガラスの香油瓶が太陽光に反射して眩しい。
「あの店で水着を買ったんだ」リラが嬉しそうな声を上げる。
「ああ、あの店だったな」シドも何やら感慨深そうな表情だ。
シドリラの笑顔に寅二郎も釣られ、微笑みを浮かべている。
「ちょいとそこのお兄さん!」
元気の良い声に寅二郎が振り返ると、
満面の笑みで女性が手招きしている。
橙色の髪を後ろに束ね、
ダボっとしTシャツに短パン姿。
元気溌剌といった印象だ。
「ええから、こっち来てみぃ。ええもんあるでぇ」
足元にシートが敷かれ、両脇に棚。露天商の様だ。
「おお!元気がいいな、もっこり姉ちゃん」
寅二郎は誘われるまま、ふらふらと店の前に立っていた。
「うちはな、タマ!ミラステラ一の雑貨商なんや!」
何が面白いのか、
タマは腰に手をやり、
ハッハッハと一人爆笑している。
「ふうむ、雑貨商ねぇ」
寅二郎が品ぞろえを見ると、アクセサリーや筆記具、シャツなどの衣服に置物。確かに節操がない。しかもどの品もデザインが“個性的”だった。
「タマ、こりゃ何だ?」寅二郎がたくさんの棘の生えた棒を持ち上げる。
「兄さん、お目が高いな!それは靴ヘラや。
何と!立ったまんまで靴が履けるんやで!」
明らかにヘラの部分も棘だらけ。
これで履いたら血だらけになるだろう。
そんな微妙な商品を楽しそうに次々と説明するタマ。
寅二郎は飽きてきたのか、何やら呟く。
「よし、集中しろ。あのTシャツのむこうにもっこりが……」
どうやら透視を試みている様だ。
ぶつぶつ呟く寅二郎にタマが言った。
「おお!兄さん。ほんまお目が高い!
このTシャツなぁ、新作やねん。兄さんにもピッタリや!」
タマがいそいそとTシャツを取り出し、寅二郎へと差し出してきた。
そこへシドとリラがやって来た。
「こんなところにいたのか」
「何々?何を買うの?」
「お!兄さんのお連れさんかい?べっぴんさん引き連れて豪気やなぁ。
ほな、このTシャツ、お買い上げでええんやろ。はい、お買い上げぇ」
タマの勢いに乗せられ、寅二郎はTシャツを買っていた。
「お?トラジロウ、Tシャツを買ったのか」
「ねぇねぇ見せて。何か絵が描いてあるね」
寅二郎がTシャツを広げる。白地で胸の正面に絵が描いてある。
「目が合うと不安になる顔」皆の意見をリラが一言で表現した。
寅二郎たちに沈黙が流れるが、
「これさえ着てれば厄除け効果満点!やで!」
タマがまた爆笑しながら言い放った。
爆笑を続けるタマをそのままに、
寅二郎たちは無言で歩き出した。
「魔力の反応も全く無いぞ。こんなものどうしろと……」
「まぁ慣れれば可愛い、かも……よ」
シドやリラの視線に耐えられなくなったのか、
寅二郎は路地へと入ると服を脱ぐ。
遠くからまだタマの声が聞こえてくる。
「兄さーん!返品不可やで!」
「いいんだよ!厄除けなんて気のもんなんだよ!こうすりゃ効果抜群だ」
寅二郎は開き直ったのか、
そのTシャツを着こみ、大きく手を振って歩き出すのだった。
夕刻、寅二郎たちはギルドを出てきた。めぼしい依頼が無かったのだ。
「こういう日もあるさ」
「うん、お金も余裕あるしね」
「なあ、酒飲みに行こうぜ。酒」
寅二郎のセリフにため息をつき、宿へと帰るその途中。
路地裏で男女の言い争う声が聞こえてきた。
「てめぇ、よくもこんなもん売ってくれたな!」
「痛い、痛いって。兄さんら、返品不可やって」
寅二郎たちが路地裏へと入ると、昼会ったタマが三人組に襲われている。
寅二郎はタマに掴みかかっている男を突き飛ばす。
「何だ!てめえら」男たちが騒めく。
「おいおい、それくらいでやめてやれよ。大の男が、三人がかりでよ」
寅二郎はタマと二人の男の間に入る。
「昼間の兄さん!助かるわ」
「この女、こんな効果の無いTシャツを売りつけやがったんだぞ」
二人は前を開き、あの謎Tシャツを見せつける。
「これは」「あらら」シドとリラは唖然の表情。
「こいつを着ても、碌な仕事にありつけやしねぇ。腹が立つだろうが!」
「それは八つ当たりやで」タマは火に油を注ぐ。
「このアマ!」突き飛ばされていた男が激情しナイフを投げてきた。
「危ない!」リラが叫ぶ。
タマが目を瞑る。その前に寅二郎がそっと立ちふさがる。
キンっ
しかし、ナイフはあらぬ方向、壁に当たって音を立てた。
「はは!このTシャツ、ご利益あるじゃねぇか」
寅二郎は笑いながら胸甲を外す。
胸の謎キャラを見せつけながら男へ走り寄り殴りつけた。
その間に、シドも二人の男へと迫り昏倒させていた。
「さて、タマ。こいつらどうする?」男を引きずりながら寅二郎が言った。
目を覚ました男たちが震える。
その姿を見ながらタマが言った。
「まぁこちらも?ちょっとした手違いが?あったみたいやし?堪忍したって」
おずおずと引き上げていく男たちを見ながら寅二郎が言った。
「大判振る舞いだな。それじゃ商人、儲からないぞ」
「ええんや。おかげで兄さんらと会えた。
“縁は買ってでも繋げ”商売の鉄則やで。
ほな、ありがとうな。助かったわ。またどっかでな」
そう言ってタマは帰っていった。
「“縁は買ってでも繋げ”か、いい言葉じゃねえか」寅二郎は微笑み、
「ふふ、トラジロウ、また変なもの買わないでよ」
「厄除け効果は気分次第か、はは、そうかもな」
リラやシドも微笑みながら、酒場へと入り、
あの謎キャラTシャツを肴に酒を酌み交わすのだった。




