第五話 鎮圧はつらいよ⑤
夜となり、裏口の兵士たちが交代するところも確認した。
「さて、行くか」「おう」シドと寅二郎が立ち上がり、音を立てず走り出す。
「!?」兵士たちに声も上げさせず、昏倒させた。
兵士たちを縛り、物陰へと隠す。
リラも合流しいよいよ扉を開き中へと入った。
「くっ」扉を閉めた瞬間、寅二郎たちは顔を顰めた。
「くせえな、何だってんだ、この匂い」
汗の饐えた匂いや、糞尿の匂い。
息をするのも、遠慮したくなるような悪臭が立ち込めていた。
それでも入ってすぐ見えた書棚の裏へと隠れた。
「あ、あれは、檻か」寅二郎が囁く。
中にはいくつもの檻が並べられ、五人の兵士で見張っている様だ。
檻の中では、何かが寝そべり呻き声を上げていた。
寅二郎たちの頭にはすぐにある光景が浮かんでいた。
(エルド!)
(ここにいるのは皆、闇魔法の被験者か!)
「これってあの時の」思わずリラが声を上げてしまった。
「あ」
「誰だ!」「何だあいつら」兵士たちが気づき、武器を構える。
「ちぃ!」「やるか!」寅二郎たちも構え、空気が一気にぴりつく。
「何者か知らんが、思い通りにはさせん!」
「この人たちは絶対に渡さん!俺たちが守る」
兵士たちがじりじりと距離を詰めてくる。
「おい!シド」
「ああ、“この人たちを守る”と言ったな。どういう事だ」
「どうなってんだ、この空気。話し合うってわけにはいかないぞ」
シドや寅二郎が戸惑う間にも、兵士たちが迫ってくる。
「もうこんなことはさせない!」必死の表情で迫る兵士たち。
寅二郎たちはその迫力に、じりじりと下がっていたが、
「応援を呼べ!ここは絶対死守だ」一人が叫び、
一人が表へ走り出そうとした瞬間。
「駄目だ。トラジロウ、やるしかない!」
「くそ!どうなってんだよ!」シドと寅二郎も走り出す。
檻を庇う様に立つ兵士たちの動きに、
寅二郎たちの困惑が深まっていく。
「この人たちには指一本触れさせん!」と繰り出される兵士の槍を躱す。
「これじゃ、まるで俺たちがワルモンじゃねぇか」その槍を掴み寅二郎が叫ぶ。
「とにかく今は制圧に集中しろ!」
シドは応援を呼びに行った兵士に飛び掛かり、
後ろから掴んだ頭を床に叩きつけた。
しかし、
正面入り口から「何だ」「騒がしいぞ」と見張りたちが入って来ていた。
シドは低い姿勢のまま彼らに迫り、兜の隙間、首当たりへ短剣の柄を差し込む。
そして、「ぐえ」と嗚咽を漏らす兵士たち。
「ちっ、浅かったか」シドは舌打ちしつつ、兵士たちを蹴り飛ばした。
寅二郎も槍を奪い取り、
兵士を蹴り飛ばすとその槍を振り回した。
兵士たちの持っていた剣を叩き落し、
腕がしびれたのか硬直する兵士たちを殴り倒した。
「ごめんなさい」とリラが歩き出す頃には静寂が戻っていた。
リラに首を振りながら二人は檻へと近づくと、
「やはり、こういう事だったのか」シドが檻の中で呻く人々を見やる。
呻き声を上げ、廃人の様に横たわる人々。失禁しているものもいる。
「しかし、檻の中は掃除されてるな。こいつらがやってるんだな」
「ああ、食事も離乳食のようなものが保管されている」
「それって、つまり……」リラがか細い声を上げた。
「ああ、今回の反乱の目的。それは“帝国の人体実験への反乱”
非人道的な帝国のやり方に反旗を翻したってことになるのだろう」
「おいおい、このままじゃ……、
トンペティの爺さんが首謀者の将軍を捕まえちまうぞ」
「ああ、急ごう。しかし……」しかし、の後を続けられずにシドは走り出す。
慌てて寅二郎たちも走り出す。皆胸の中にどす黒い靄のような気分を抱えて――




