第四話 天然系の護衛はつらいよ④
寅二郎たちはスクビルの検問所へと辿り着いていた。
シドが襲撃してきた男たちを引き渡す。
「お前ら雇われだろ?殺す気はなかったな。誰に雇われた」
シドが男たちに尋ねる。
「言うわけ無いだろ?」
「名前も分からんしな」
口々に言う男たち。
「教えてくれたら減刑を口添えしてやってもいい」
なおも尋ねると、
「そう言われても、右頬に傷があったくらいかな」
と一人が渋々言った。
「シド、信じるのか?」寅二郎は半信半疑だ。
「まぁ保険みたいなものかな。嘘でもしょうがない」
シドは手をヒラヒラさせて、歩き出す。
「さぁ、これからはアーデルの力の見せどころ」
「だな」寅二郎も続き、検問所を後にした。
スクビル商会の建物の前にはヴァルニス会計局の人間が集まっていた。
男女10人の集団。そこへアーデルを先頭に寅二郎たちが合流した。
「皆さん、お待たせしました。これからスクビル商会へ査察に入ります」
その場に居た局員が静かに、しかししっかりした足取りで中へと入った。
「これはこれは。ようこそ会計局の皆さん。
私は当スクビル商会の商会長を務めております。ウサンクスと申します」
と丸眼鏡に口ひげの男が、
口元をニヤつかせながら揉み手で出迎えに立っていた。
「通知いたしました通り、今から査察に入ります」
「どうぞどうぞ。我々は逃げも隠れもいたしません」
ニヤケ顔の商会長の勧めるまま、
アーデルたち会計局の人間が書類に手を出し始めた。
そんな中、寅二郎の肩をつつく者がいる。
「なんだ?」寅二郎が振り返ると、シドが視線で一人の男を示す。
「!?」寅二郎が息をのむ。シドと視線を合わせ頷きあうと、シドが消えた。
「あら、トラジロウ。シドはどうしたの?」リラが尋ねると、
「ああ、保険とやらで出かけたよ」
寅二郎は答え、すっと頬に傷のある男を眺めるのだった。
アーデルたちは膨大な書類の山と格闘中だった。
リラが局員に飲み物を配ったりしている。
寅二郎は時折アーデルに、
「これはどういう意味だい?なるほどすごいな」
「疲れたろう?少し代ろうか」
「この荷物、あそこに移動でいいんだな?」
などと声をかけたりしていたが、
この場にいる全員が黙々と事に当たっていた。
そして、夕刻。
「おかしいです。数字が合いません。金貨2000枚ですよ!2000枚!」
アーデルが叫びに近い声を上げた。
「なんと!しかしわたくしたちの書類はこれが全て。
どうやら、当商会に不手際があったようですな。面目次第もありません」
眉を寄せ頭を下げる商会長に、
「なんか胡散臭いな」リラと共に寅二郎が呟いた。
「しかし、これ以上は何も出ませんなぁ。
これからはわたくしども、一から数字と向き合う所存です」
ヘラヘラとニヤケ顔を見せつける商会長。
(そんなはず無い!スクビル商会程の大店がそんな間違いをするなんて)
アーデルが唇を噛みしめていると、
「待たせたな」そう言ってシドが入り口に立っていた。
そして、寅二郎へ一冊の帳簿を投げてよこした。
「それを」受け取った寅二郎がアーデルに渡す。
「!?」その瞬間、商会長と頬に傷のある男が動揺した。
受けとったアーデルが中を確認すると、
「これは!合います!これでピッタリ金貨2000枚!
しかも、勘定科目!何ですか?この“コロボへの災害復興支援”とは。
隣国コロボにこんな名目でなぜ大量の資金が流れているんです?」
その瞬間、商会長たちはその場にへたり込んでしまった。
「この先は尋問官にお任せします。皆さんお疲れさまでした」
その一言で、その場に安堵の空気が広がった。
皆、笑顔で笑い声を上げたり健闘をたたえ合う。
そんな中で、
「やったな!アーデルちゃん」寅二郎がアーデルに顔を向けると、
アーデルは髪留めを外し、眼鏡も外すと首を振る。
「おお!」
アーデルの豊かなブロンドが肩口まで垂れさがり、
風に揺れる髪、輝く口紅、潤む瞳。何とも色気が溢れ出る。
そして、アーデルは歩き出す。
「おお!?」声を上げる寅二郎の……、
先に居るシドの下へと――。
「私、仕事にまっすぐ取り組む寡黙な人って素敵だと思います。
是非、今回のお礼をさせていただきたいですわ。二人きりで」
アーデルの眼はハートマークになっていた。
「おおお???」寅二郎がその場に崩れ落ちていた。
そんなこの場の光景に、リラは手を広げると言った。
「ちゃんちゃん」




