第四話 天然系の護衛はつらいよ③
事務所前に馬車が停まり、
サマルクスが見送りに出てくれた。
「それじゃトラジロウ、頼んだぞ」
「おう、任せろ」
寅二郎たちのその姿に不服気な表情のアーデル、
「子供じゃ無いんですから」そういいながらも、馬車の昇降口で躓いた。
「危ない!」寅二郎がアーデルを支える。
「すみません、ありがとう」
「いやいや」
寅二郎とアーデルのやり取りに、シドやリラはため息をつく。
「先行きは不安だな」
「トラジロウの鼻の下、随分伸びちゃって。もう」
デレデレとアーデルを見つめる寅二郎。
それを心配そうに眺めるシドたちの乗った馬車が、
スクビルへと向かい走り出した。
ずっと目をハートマークにしている寅二郎を押し退けリラが尋ねた。
「アーデルさん、どうしてこのお仕事に?」
アーデルは眼鏡の位置を直しながら笑顔で言った。
「小さい頃から数字が好きだったの。計算すれば答えが必ず同じになる。
数字は嘘を付かないからね。友達と遊んでいるより帳簿とにらめっこ。
そんなこんなでこの仕事に就いていたって感じかな」
「それは偉いなぁ。俺は数字には無頓着だからなぁ。はっはっは」
「トラジロウはもうちょっとお金にも関心持ってよね。もう」
「だから帳簿で嘘なんて吐かせない。不正があるなら見つけ出して見せる」
相変わらず強気のアーデルに寅二郎やリラが歓声を上げる。
(数字は嘘を付かない、か。しかし帳簿を書くのは人間。
その辺りの認識の甘さがサマルクスの心配の種ってことだな)
シドの心配はその後すぐ、現実となるのだった。
スクビルへと入る直前、その森の中で御者が叫ぶ。
「危ない!」その声と共に馬車が急停車した。
「なんだ!」寅二郎とシドが馬車を飛び出し、リラがアーデルに覆いかぶさる。
見ると、馬車の目の前に大木が横たわっている。
その大木を乗り越え男たちが。
後ろからも男たちが走りこんでくる。
皆スカーフをマスク代わりに巻いている。
「狙いはアーデルか!トラジロウ前を頼む」シドが後ろに走り出し、
「おう!アーデルちゃん、見ててね!」寅二郎が前に走り出す。
驚くほど速やかに計六人の男たちを取り押さえた。
「何だ、こいつら?弱すぎないか?」
「ああ、ただの嫌がらせだったらしいな」
「くそ、こんな腕利きいるなんて聞いてねぇぞ」「いてて」
口々に言う男たちを縛り、シドは御者と何やら相談している。
寅二郎は微笑みながら馬車へと歩いていく。
「リラ、アーデル。無事か?」
「うん大丈夫。ありがとうトラジロウ」
リラとアーデルが馬車から降りてきた。
「あの、シドさんは何を?」アーデルがシドを探す。
「ああ、襲ってきたやつらの処遇をな。
スクビルも近いし検問所に引き渡そうって。
悪いがあいつら連行するから、馬車の速度はちと遅れることになる」
そう言って寅二郎が歩き出す。
「ちょっと見てろよ」寅二郎は横たわる大木を掴むと、
「よいしょ!っと」気合と共に横へ投げ捨てた。
そして、
「見てた?アーデルちゃん」と、アーデルに力こぶを見せつける。
「それがなきゃカッコいいのにね」
リラとアーデルの苦笑いをきっかけに、
馬車はスクビルへと再出発するのだった。




