第三話 助平はつらいよ①
ヴァルニスの国主、マルセロから紹介された武聖トンペティ。
その彼と会うために、寅二郎たちは“武聖楼”へとやって来ていた。
寅二郎は“武聖楼”を楽しそうに見回している。
「おお、何か懐かしい感じがするな。親父の実家に帰省したみたいで」
「お前のいた世界の時の事か?トラジロウ」
「ああシド、あの屋根にある瓦な、こっちじゃ珍しいだろう?」
「確かに、あの様な屋根は見たことがない」
「お屋敷自体も木が使われていて、何だか温かい感じがするね」
「ああリラ、いいよな。あの感じ、ほっとするよな」
「お、あっちは道場かな?うちの爺さんも剣道の師範でな。
夏休みなんかは帰省して、よくしごかれたもんだ」
嬉しそうに前世の話をする寅二郎。
その横顔にシドの胸がチクリと痛む。
(トラジロウは事故で亡くなり、こちらの世界に。
――未練は有る、のだろうな)
そんなシドの気持ちなど知らず、
寅二郎がずんずんと前を歩く。
「いいね、この活気。気合が外まで聞こえてくる。
――たのもう!」
寅二郎が道場の戸を開くと、
20人ほどの門下生が向かい合い、
組み手を行っている。
その奥で、武聖トンペティが座っていた。
サングラスの奥の瞳が寅二郎たちを捉える。
こちらを見据え、
眉を寄せるトンペティの前に寅二郎たちが立った。
「あんたが武聖トンペティ?俺は冴木寅二郎ってもんだ」
「お前が“もう一人の勇者”か。――それと、おぉ!」
「ぷりちぃがーる!」
それまでの威厳ある態度が一変。
リラを見つけるとトンペティが奇声を上げた。
ぎょっと目を開く寅二郎たち。
ああまたか、と目を閉じる門下生たち。
次の瞬間には、トンペティはリラの後ろに回りお尻を撫でていた。
「ひっ!」リラが驚くが、すぐに「この変態!」背後に向かって裏拳を放つ。
しかし、屈んで避けるトンペティ。
その素早い動きに寅二郎。
「おお!“オカン”の裏拳を躱すとは。ただもんじゃねぇ!」
「ほっほ!儂の力はまだまだこんなもんじゃ、……っておろ?」
見ると、シドがトンペティを羽交い絞めにしていた。
「こ奴、なかなかの動き。ん?」
トンペティはシドの胸甲の弾力に違和感を覚え、
(この圧力、胸筋というより胸?――)
そしてトンペティの意識を遮る気迫を感じ、前を向くと――
「こぉの、変態じじぃ!」リラの正拳突きがトンペティの鳩尾を貫いていた。
ズドン!
「一本!」師範代の声がかかり、
「こんな、いやこのお方が武聖トンペティ?」
リラが肩で息をし、シドが羽交い絞めのまま嘆くと、
『ほんと、すみません』
門下生一同の心の声が道場内に響くのだった。




