第二話 一攫千金はつらいよ⑬
「俺はこの後、フォルトゥナのカジノへ監査に入る。
君たちはどうする?
何ならここで依頼達成という事でも構わないが」
サマルクスは港へ着くなり言い出した。
「俺たちは……」寅二郎は床に座らせたエルドを見て、
「俺たちは行く。カジノへな。ケリをつけてやる」
サマルクスへ視線を移し、そう言い切った。
「待って!少しだけ時間がほしいの」
エルドの傍らにいたリラの言葉に、
サマルクスや寅二郎は頷いた。
寅二郎たちは、港町にある聖ローマン教の教会へと来ていた。
リラが司祭を説得し、エルドを預けることにしたのだ。
「あの時も、傍についていてくれる人がいれば、
救われたと言ってくれる人もいたの」
ブラクク事件の際、
被害者に寄り添ったリラの言葉に皆うつ向いたままでいた。
サマルクスは宿屋へと帰る道で言った。
「やはり“国呑みの袋”に象徴されるあのカジノは潰さなければならない」
寅二郎たちも頷く。
「国主マルセロに早馬を出した。俺たちもフォルトゥナへ行こう」
フォルトゥナのカジノ行の馬車内、サマルクスが口を開いた。
「あの“国呑みの袋”だがな。呪いのアイテムでな」
「国同士の戦争のきっかけとなったとかってアレか」
「ああ、所持者が次々不幸に見舞われヴァルニスでも持て余してな。
回りまわって今はあのカジノ。なんの因果かねぇこれは」
「そんなことはいいんだ。エルドの片は付けないといけねぇんだ」
寅二郎は強く拳を握る。シドはその姿に不安を覚える。
(トラジロウ、あまり思いつめなければいいが)
宮殿の様な煌びやかなフォルトゥナのカジノ。
その城門の前の広場にはいつもの市や、客の姿は無かった。
代わりに整列した兵士たちの姿。
ヴァルニスの会計局の人間たちだ。
その部隊の先頭にサマルクスが立つ。傍らには寅二郎たち。
「“エンダープでの闇取引”!“カジノを通じてのマネーロンダリング”!
そして“非人道的な人体実験”!証拠も揃った!今から査察へ入る!」
サマルクスが兵士たちに叫び、拳を突き上げる。
「行くぞ!」
サマルクスの号令と共に部隊が歩き出す。
城門を抜け正面玄関を抜ける。
「ヴァルニス会計局の監査です!皆さん動かないで!」
兵士たちが次々と各地に散っていく。
騒然となる客や従業員たち。
それでも寅二郎たちは構わず奥へと歩みを進める。
二階へと上がり、正面の景品棚に“国呑みの袋”。
その前で支配人が立ちすくんでいた。
サマルクスは支配人の顔の前に書類を見せつける。
「エンダープでの武器売買、ここを通じてのマネーロンダリング。
それに非人道的な人体実験の容疑であなたに逮捕状が出ている。
大人しくついてきてもらおうか」
「俺はこのカジノの支配人!俺は……」
支配人の言葉を一切聞かず、サマルクスが後ろの兵士に顔を向けた。
その瞬間、支配人は走り出した。
「おい!あの野郎。何する気だ」寅二郎が走り出す。
支配人は景品棚へしがみ付くと、
棚へと飛び上がり、
“国呑みの袋”を取り上げた。
「フハハハ!俺はこんなところで捕まる男じゃねぇ!
この“国呑みの袋”で全て吸い込んでやる!」
「くそ!」寅二郎が立ち止まり、支配人と距離を取る。
「こいつが何でも入るってのは嘘じゃねぇぞ!」
支配人は袋の緒を緩める、
そして袋の口に手を当てると拡げた。
「さあ!こいつら全員吸い込んじまえ!」
支配人の叫びに、寅二郎たちが身構える。
リラの頬に汗が流れる。
しかし、何も起こらなかった。袋は何も吸い込まない。
「何故だ!そんなはずは……」
その瞬間、支配人の足元、積まれた景品が崩れた。
支配人が棚から落ちる。――はずがそうはならなかった。
「こ、これは!?何故だぁ!」
見ると支配人が腰まで袋に吸いこまれている。
寅二郎たちは動くことが出来なかった。
「うわぁぁぁぁぁぁ」と断末魔を上げ支配人は消えた。
ぽたりと音がした。
そして床には“国呑みの袋”だけが転がっていた。
「これで逮捕完了、だな」サマルクスが袋を拾った。
それから各所に散っていた兵士たちと合流したサマルクスが言った。
「これで解決に向けて動き出せる。トラジロウ、本当に助かった」
「いや、俺はエルドの落とし前がつけばそれでいい」
寅二郎たちと共にカジノを後にするシドは思った。
(あの時、何故“国呑みの袋”は私たちを吸わなかった?
カジノでの勝負でも手に入れなかった私たちに“欲”が無かったから?
あの支配人は“欲”に縛られていた。その違いなのだろうか)
シドは答えの見えない問いに首を捻り続けるのだった。




