第二話 一攫千金はつらいよ⑫
「まずは、身を隠せる拠点を見つけたいな」
岩場に舟を停め、シートをかぶせたサマルクスが言った。
寅二郎たちは降り立った島、エンダープの光景を眺めた。
視線の先に定期便の停まる正規の港が見える。その傍らに村が見えた。すでに明かりは消えている。そして小さな山が見える。月明かりのみのため、よく分からないが山の中腹に建物が見えた。
「何つうか、“匂い”がしないな」寅二郎が言った。
「そうだね。潮の匂いとか、山の葉の匂いならするけど、
人の“匂い”、生活しているって感じがしないね」
キョロキョロと辺りを見回すリラ。
そんな二人を遮るように小声でシドが言った。
「静かに、誰か来る。隠れよう」
そうして4人は山の方、樹の陰に隠れた。
歩いてきたのは二人。
剣を履き海の方を見ながら巡回する兵士の様だった。
「あ~あ、とっととこっから出たいぜ」
「だな、何も無い島だしなぁ。それに――」
と山の方を振り返る兵士。
寅二郎たちがより深く身を隠す。
「あそこは不気味だし。
知ってるか?あそこに人が連れ込まれているって」
「ああ、しかし誰も帰ってこない。
人の気配もしないってやつだろ?」
怖い怖い、カジノで遊びてぇと二人の兵士は港の方へ歩いて行った。
「早速当たりを引いたらしいな」
サマルクスが言った。
「運がいいのかな?これって」
そう言ってリラは無意識に首元のサイコロをいじっていた。
「外れでも拠点代わりになるかもしれない。行ってみよう」
シドを先頭に、山道を掻き分けながら進む。手入れされていない道なき道を進むことしばし、中腹の建物の裏手へと出ることが出来た。
「寝てるんだろうな。人の気配がしない」
明りのついていない窓を見て寅二郎が言った。
しんと静まる建物には見張りの姿も無い。
シドがそっと建物へとすり寄った。
「どうやら本当に人はいないようだ。動いているものの気配が無い」
シドは立ち上がり、寅二郎たちに手招きした。
そして扉の前で開錠作業に入った。
しばらくして、開錠した扉を開けたシドと共に建物の中に入った。
「ゴーレム等の魔物がいる可能性はある。気は抜くな」
シドは声を顰め、一歩一歩慎重に歩いていく。
寅二郎たちも息を顰め、後に続く。
廊下を歩く寅二郎たち。
幾つか部屋を覗いたが取り立てて何も無かった。
突き当りを左に曲がると下に向かう階段があった。
階段を降りると大きな部屋へと出た。
雑多に物が散らばり左右にはいくつか鉄格子が見える。
牢獄のようだ。
奥には書棚や木箱が置かれている。
そんな光景を見ながら、シドの耳にかすかな物音が聞こえた。
「静かに。何かいるぞ」声を顰めるシド。
寅二郎たちも耳を澄ます。
静かに、しかし確実に何かの音がする。
何かの寝息に聞こえる。
「おい!アレ」寅二郎が思わず声を上げた。
しかも牢獄に向かい走り出す。
「トラジロウ!」シドたちも慌てて後を追う。
鍵もかけず放置された牢獄に、寅二郎は難なく扉を開き中へと入った。
寝ているように見える人影を起こし、声をかける。
「おい!エルド!」寅二郎が抱え起こしたのはエルドだった。
「エルドさん!?」リラも驚き声を上げる。
エルドは痩せて見えた。
そして目は開いているが焦点があっていない。
ああ、とか、うう、とか言葉にならない声を漏らしている。
もはや廃人のようだ。
「何をされたんだ。こんな!」寅二郎の頬に汗が伝う。
エルドを見ていたリラの頭に、
何故かルゼリアでブラククに記憶を奪われた被害者たちの顔が浮かんだ。
「何か心の大切なものを奪われたような……」リラが呟く。
シドはリラの言葉で、もう一つ思い浮かぶ光景があった。
(“コルダ丘陵”!あの時レオンは聖属性を反転されて悪魔へと……)
「何かの実験のモルモットにされたってのか!」寅二郎が叫んだ。
他の牢獄にも何人もの人たちが同じように蠢いていた。
しかし、そんな人々に目もくれずサマルクスは奥の書棚へと走っていた。
そして木箱を開く。「これだ!」木蓋を投げ捨て、中身を掲げる。
それは剣だった。大量生産されたような特別製とも思えない一本。
「聖属性の効果を打ち消す付与がされている。“人殺し”の剣だ!」
エルドを抱えた寅二郎たちもやって来た。シドが剣を見ている。
「銘は無し、か。しかしおそらくこれは、……帝国製だろうな」
サマルクスは剣を置き、書棚を調べつくす。
そして、
「見つけたぞ。密輸取引の帳簿だ」
そう言ってサマルクスが一冊の書類を掴みだした。
書類を広げ、何やら指差し確認している。
「帳簿の符号もばっちりだ。間違いない」
「もうここには用は無い!急いで脱出するぞ」サマルクスが叫ぶ。
寅二郎たちもエルドを抱え、舟へと戻り島を脱出した。
もうすぐ夜が明けようかという洋上。誰も口を開くことは無かった。
うっすらと水平線が明るくなり始めるが、波は静かに舟を浮かべるのだった。




