第二話 一攫千金はつらいよ⑧
「おい、見ろよあの卓」「何かすごいことになってるぞ」
カジノの客たちが騒ぎ始めた。
徐々に寅二郎たちの卓に群がってくる。
それもそのはず、寅二郎のコインが山を成していた。
「すげぇんじゃねぇ?これ」無邪気にはしゃぐ寅二郎。
「いいね!めちゃくちゃついてるよ、トラジロウ」リラも嬉しそうだ。
シドがじっとディーラーを見ていると、
「お客様、少々お時間をいただきます」
ディーラーがそう言って奥へと消えた。
シドは置き去りとなったカードへと目をやる。
(カードのマーク辺りに魔術刻印で細工、だろうな)
「あいつら“無限収納”いけるんじゃ……」「何でも入るっていうアレか」
客たちが勝手に盛り上がっている。
しばらくしてディーラーが戻ってきた。
支配人だという黒スーツの男を連れて。
「お客様、随分と景気がよろしいそうで。
よろしければ特別卓へご案内させていただけませんか?」
男は金髪を後ろに撫でつけ、薄い色の眼鏡をかけている。体つきも筋肉質で、カジノの支配人というより用心棒のようだった。笑顔を見せているが目は笑っていなかった。
「いいぜ!今なら何でも来いって感じだぜ」
寅二郎が立ち上がり、男について歩き出した。
男が立ち止まり、卓を勧める。ライトで照らされ観客が周りを囲む。
「こちらで最後の勝負をしていただきます。
勝てば当カジノの目玉、“無限収納”と呼ばれる魔法袋。それと、
フォルトゥナ沖の孤島、“エンダープ”への旅行券を差し上げます」
男の隣にディーラーが立った。手に新しいカードを持っている。
寅二郎たちが席へつくと封を開け、カードをシャッフルし始めた。
(やはり手つきは先程と同じ。封を切り新しいカードを出したのはポーズだな)
ディーラーが山を差し出すのに、
「新しいカードじゃさっきまでの勢いもここまでかもな」
と、軽口を言いながらシドが山を切る。
同じようにカードに触れ感触を確かめた。
「馬鹿野郎。俺の流れは止められないぜ!」
寅二郎の言葉に周りが湧く。
シドの動きも悟られていないようだ。
ついに勝負が始まった。
一進一退の攻防。
しかしふいにディーラーの手が止まった。
(ディーラーも気付いたようだな)シドは顔色を変えず思う。
――魔術刻印による山の流れ、起点をずらせば流れ自体が変わる。
顔を向けられていないのに感じる敵意。
シドはそれを感じながらも何も言わない。
そんな中、この勝負の山場がやって来た。
「ここらで一気に勝負に行くぜ!」
寅二郎が叫び、コインを全て賭けた。
寅二郎の手元には10と7。
「ここでヒットだ!」会場が大いに沸いた。
ディーラーの額に汗が浮き、支配人の顔が引きつっている。
寅二郎に三枚目のカードがやって来た。
「こいつでどうだ!」カードを裏返すと、
“5”。カードには5と書いてあった。
「バーストしてんじゃねえか!」
観客たちから絶叫が轟く。
爆笑や怒号も飛び交う。
そんな中、
ディーラーと支配人は敵意をすっと消しほっとした表情で、
「お客様、お楽しみいただけましたでしょうか。
またのお越しを一同お待ちしております」と頭を下げた。
無一文でカジノを出る寅二郎。
「ちぇ、いけると思ったのになぁ」
「惜しかったね。でも楽しかったし、これで良かったのかも」
寅二郎とリラがカジノの感想を言い合う中、
(なぜ“無限収納”に旅行券が付いてきた?
それにあの敵意、圧は只者じゃなかった)
シドは深く思案していたが、
寅二郎が不意に言った。
「そういや、エルドはどうなった?
あいつ上手く儲けてたらただじゃおかねえ!」
「カッコ悪いからそういう事言わないで!」
リラに叩かれ頭を抱える寅二郎にシドが言った。
「そうだな、明日ギルドで聞いてみよう」
宿屋へ向かう間、シドは不安の正体を考え続けるのだった。




