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異世界はつらいよ~転生勇者放浪記~  作者: 花京
第六章 商業都市国家群ヴァルニス編
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第二話 一攫千金はつらいよ⑧

「おい、見ろよあの卓」「何かすごいことになってるぞ」

 カジノの客たちが騒ぎ始めた。

 徐々に寅二郎たちの卓に群がってくる。

 それもそのはず、寅二郎のコインが山を成していた。


「すげぇんじゃねぇ?これ」無邪気にはしゃぐ寅二郎。

「いいね!めちゃくちゃついてるよ、トラジロウ」リラも嬉しそうだ。

 シドがじっとディーラーを見ていると、


「お客様、少々お時間をいただきます」

 ディーラーがそう言って奥へと消えた。

 シドは置き去りとなったカードへと目をやる。


(カードのマーク辺りに魔術刻印で細工、だろうな)


「あいつら“無限収納”いけるんじゃ……」「何でも入るっていうアレか」

 客たちが勝手に盛り上がっている。


 しばらくしてディーラーが戻ってきた。

 支配人だという黒スーツの男を連れて。


「お客様、随分と景気がよろしいそうで。

 よろしければ特別卓へご案内させていただけませんか?」 


 男は金髪を後ろに撫でつけ、薄い色の眼鏡をかけている。体つきも筋肉質で、カジノの支配人というより用心棒のようだった。笑顔を見せているが目は笑っていなかった。


「いいぜ!今なら何でも来いって感じだぜ」

 寅二郎が立ち上がり、男について歩き出した。


 男が立ち止まり、卓を勧める。ライトで照らされ観客が周りを囲む。


「こちらで最後の勝負をしていただきます。

 勝てば当カジノの目玉、“無限収納”と呼ばれる魔法袋。それと、

 フォルトゥナ沖の孤島、“エンダープ”への旅行券を差し上げます」


 男の隣にディーラーが立った。手に新しいカードを持っている。

 寅二郎たちが席へつくと封を開け、カードをシャッフルし始めた。


(やはり手つきは先程と同じ。封を切り新しいカードを出したのはポーズだな)


 ディーラーが山を差し出すのに、

「新しいカードじゃさっきまでの勢いもここまでかもな」

 と、軽口を言いながらシドが山を切る。

 同じようにカードに触れ感触を確かめた。


「馬鹿野郎。俺の流れは止められないぜ!」

 寅二郎の言葉に周りが湧く。


 シドの動きも悟られていないようだ。


 ついに勝負が始まった。


 一進一退の攻防。


 しかしふいにディーラーの手が止まった。


(ディーラーも気付いたようだな)シドは顔色を変えず思う。


――魔術刻印による山の流れ、起点をずらせば流れ自体が変わる。


 顔を向けられていないのに感じる敵意。

 シドはそれを感じながらも何も言わない。


 そんな中、この勝負の山場がやって来た。


「ここらで一気に勝負に行くぜ!」


 寅二郎が叫び、コインを全て賭けた。


 寅二郎の手元には10と7。


「ここでヒットだ!」会場が大いに沸いた。


 ディーラーの額に汗が浮き、支配人の顔が引きつっている。


 寅二郎に三枚目のカードがやって来た。


「こいつでどうだ!」カードを裏返すと、


“5”。カードには5と書いてあった。


「バーストしてんじゃねえか!」


 観客たちから絶叫が轟く。

 爆笑や怒号も飛び交う。

 そんな中、

 ディーラーと支配人は敵意をすっと消しほっとした表情で、


「お客様、お楽しみいただけましたでしょうか。

 またのお越しを一同お待ちしております」と頭を下げた。


 無一文でカジノを出る寅二郎。

「ちぇ、いけると思ったのになぁ」

「惜しかったね。でも楽しかったし、これで良かったのかも」

 寅二郎とリラがカジノの感想を言い合う中、


(なぜ“無限収納”に旅行券が付いてきた?

 それにあの敵意、圧は只者じゃなかった)


 シドは深く思案していたが、


 寅二郎が不意に言った。


「そういや、エルドはどうなった?

 あいつ上手く儲けてたらただじゃおかねえ!」

「カッコ悪いからそういう事言わないで!」

 リラに叩かれ頭を抱える寅二郎にシドが言った。

「そうだな、明日ギルドで聞いてみよう」


宿屋へ向かう間、シドは不安の正体を考え続けるのだった。

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