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異世界はつらいよ~転生勇者放浪記~  作者: 花京
第五章 亜人共和国ルゼリア編
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第十二話 英雄譚はつらいよ

 ヴァルナと別れ、寅二郎たちは酒場へとやって来ていた。

 エルフやドワーフ、獣人たちが入り混じり、

 笑い声や怒鳴り声まで賑やかな声が響いている。

 適当な席に着き、寅二郎たちが話し出した。


「何だか、やっと来れたって気がするぜ」

「そうね、何だかここ最近、いろいろあったしね」

「ああ、バタバタといろいろ続いたな」


 席に酒や料理が運ばれ、寅二郎たちが杯を重ねる。


「ま、とりあえず乾杯、だな」

 

 寅二郎たちが酒や料理に舌鼓を打つ中、ひとりの吟遊詩人が舞台の上に立った。背には古びたリュート、衣は旅塵にまみれ、けれどその瞳はどこか澄んでいた。


「――聞けよ、旅人たち。

 今宵は遠き異界より来たりし五つの光の物語を」


 リュートの弦が、やさしく鳴る。

 酒場の空気に、音が溶けていくように徐々にざわめきが落ち着いていく。


「紅は炎、勇気の刃。

 蒼は盾、静けき誓い。

 金は知恵、空を裂く光。

 黒は影、真実を覗く瞳。

 白は祈り、死を癒す雪。」


 次第にざわめきが収まり、皆の視線が吟遊詩人へと向かっていた。

 リラがうっとりと聞き入り、寅二郎とシドが顔を見合わせる。


「この詩、これはもしや……」

「ああ、あいつらの、アンナたちの事だな」

 小声で話し合う。


「五つの魂、光輪を成して天にかかる。

 王国はそれを“奇跡”と呼び、

 人々はそれを“希望”と呼んだ――」


 寅二郎は自然とアンナたち《暁の翼》の事を思い出していた。聖母マリアたち聖ローマン教の“英雄召喚”で喚び出されたあの時。三魔将ベルゼにリ・エスティーゼ王国を急襲された時、必死の表情で戦う彼女たちの顔を思い浮かべ、酒を呷った。


 詩人は最後の一節を歌い上げる。


「いまも彼女らは旅の果てにあり、夜の空に虹をかけるという。」


 しばらくの静寂のあと、酒場に拍手が広がった。

 リラやシドも拍手に交じり、寅二郎はそっと呟く。


「アンナたち、みんな頑張っているんだな」


 吟遊詩人は舞台を降りると、そっと辺りを見回した。

 シドやリラ、そして寅二郎に目を留めるとこちらへと歩いてきた。

 拍手や歓声に囲まれながらも寅二郎の前に立ち、言った。


「相席させてもらっても?」


 リラは感動しているらしくすぐに席を勧めた。

 吟遊詩人は席に座ると言った。


「私は“リュート”と呼ばれています。各地を旅し詩を謳っています」


 男はエルフのようで、

 横に伸びた耳を触りながら背中のリュートを席に立てかけた。


「素晴らしい詩だった」


 そう言ってシドが酒を勧める。

 笑顔で「いただきます」と酒を呷ったリュートに寅二郎が言った。


「なぜ、ここに来た?」


「トラジロウ、それは私が」


 リラが寅二郎の言い方に慌てる。


 しかしシドは口を噤む。


(確かに。リュートはトラジロウを見つけてここへ歩いてきた……)


 寅二郎の視線をまっすぐ見つめていたリュートだったが、


ふと、


「ふふ、そんな大層な理由では無いのですよ。言うなれば“直感”。

《光輪の乙女たち》と同じ“匂い”を感じた。といったところですよ」


 そんなセリフと共に微笑んだ。


「同じ匂い、ねぇ。まぁいいや。詩は堪能させてもらったしな」

 寅二郎はそう言って、リュートの杯に酒を注いだ。


「嬉しいセリフですね。いただきます」

 そう言ってリュートは酒を呷った。


 そして、杯を置くと言った。


「こんな商売をしているとね。いろいろな“匂い”を感じるのですよ。

 海の匂い、山の匂い、草原をそよぐ風の匂い。出会う人々の匂い、

 それに――“国の匂い”とかね」


「国の匂い?」「ほう、そんなことが」リラやシドは感心している。


「それで?この国はどうだ?」寅二郎が尋ねた。


「この国はいいですね。私自身の生まれ故郷ということもありますが、

“あそこ”と違って匂いが流れ続けていると言いますか」

「あそこ?」

「ああ、つい最近までヴァルニスに居たのですよ」

「へぇ、ヴァルニスに。それがなぜここに?」


「ヴァルニスの“匂い”が籠っている。

 そんな感じがして出てきてしまったのです」


 ふうんとリラは特別気に留めず、

 他の国、旅の話を尋ね始めた。

 寅二郎も何も言わず酒を呷っている。


 しかし、シドは確信に近いものを感じていた。


(やはり、ヴァルニスには何かあるようだな)


「楽しい時間を過ごさせていただきました。ではまたどこかで」


 そう言い、リュートは席を立つと酒場を出て行った。


「何か不思議な人だったね」リラは満足そうな笑顔。


「そうだな。詩も良かったしな」

 寅二郎も感じるものが合った様で微笑んだ。


 しかし、シドは一人何も言わずに思った。

(そろそろ、動き出す頃かもな。次はヴァルニス、だな)


酒場を出て空を見上げる。ここからでも見える“世界樹”。

いよいよその包まれるような“匂い”から旅立つ時が来ていた。

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