第十一話 依頼探しはつらいよ②
意気揚々とギルドを出る寅二郎。
そして後ろに続くリラたちに声がかかった。
「済まない、突然に。君たちは文字が書けるのだろうか?」
「はい?」
リラが振り返ると、銀色の体毛を持つ獣人族が立っていた。
「君たちギルドの掲示板で、依頼を色々と探していたようだ。
実は今、“文”を渡したい相手がいるのだが、私は字が書けないんだ」
「それで?」
シドはそっとリラの半歩前に立つ。
「お願いだ。文字を教えてくれないか。
どうしても“文”で私の気持ちを伝えたいんだ」
「ええ、俺たち今からさけ、……ふが!」
深く頭を下げる獣人の姿に、
寅二郎の口を後ろ手に塞いだリラ。
シドの隣に立つと言った。
「話、聞かせてくれる?」
そう言って三人は獣人と共にギルド内へと戻ったのだった。
騒めくギルド内でテーブルを見つけ、獣人が席につく。
そして、緊張した面持ちの獣人が言った。
「自己紹介がまだだったな。
私はウルブス、この街で警備隊員として働いている」
「私はリラ。この二人はトラジロウとシドよ」
「早速だが“文”を渡したい相手と言うのは?」
シドの言葉に照れくさそうな表情を浮かべ、ウルブスは言った。
「警備隊で俺たちの隊長をしている女性なんだ」
ウルブスの態度に色めき立つリラとシドが言った。
「ほう、それで?」
「俺は元々貧しい家の生まれでな。それ自体を恨んだ時期もあった。
しかし、彼女に拾われ隊に入れてもらって随分と生活が楽になったよ」
“融和”を訴え、街でも明るい雰囲気を感じていたリラたちが口を閉じる。
「頑張ればちゃんと身になるから、この国の在り方自体をどうこう言うつもりじゃないんだ。そんな環境で“隊長”まで上った彼女に憧れてな。それで、その……」
体毛で覆われているはずのウルブスの顔が真っ赤に見えた。
「この俺の気持ちをちゃんと伝えたいんだ!」
リラは微笑み、「いいよ。文字、教えるよ」とウルブスの隣に席を移し、“授業”を始めた。ウルブスは真剣な表情だ。しかし文字を間違えたのか、時折頭を抱えたり悪戦苦闘の様子。
シドはウルブスのまっすぐな気持ちの吐露に眩しさを覚え、
(私の気持ちは。実際のところ、どうなんだろうな?いや、駄目だな)
自分の心に向き合おうとして、結局、止めた。
寅二郎はテーブルに突っ伏したまま、リラたちを眺めぼやく。
「けっ。人さんの恋路なんぞどうでもいいっての。酒行こうぜ、酒」
シドに頭を殴られている間にリラたちの“授業”は終わったようだ。
「ありがとう!本当に感謝する」深々と頭を下げてウルブスは走って行った。
ウルブスの後姿を見ながら、リラが言った。
「《クレイジーラック》で教わったことがこんな風に役立つなんてね」
リラが“元”娼婦であったことを思い浮かべ、シドが言った。
「そうだな。あそこは“独り立ちする力は与えてくれていた”ということかもな」
「そこから力をどう使うかは私次第だったってことだね」
リラはふっと息を吐き、「上手くいくといいね」と微笑んだ。
「そうだな。トラジロウはどう思う?」
シドに振られた寅二郎は、
「知らねえよ。でもあの笑顔見たらもう、
……そういうことなんじゃねえかな」
盛大に背伸びをしながらも、寅二郎の表情も笑顔に見えた。
「待たせちゃったね。そろそろ行こうか」
「ホントだぜ、腹も減ってきたしよぉ」
「ああ、行こう。ウルブスの未来に“乾杯”、だな」
シドは立ち上がると、思い出したかのように言った。
「これも立派な“依頼”だったかもな」
「報酬は笑顔ってやつか。ハハっ」寅二郎が笑い飛ばし、
三人は皆笑顔でギルドを、今度こそ出たのだった。




