第八話 勇者PTカルナードへ行く⑧
そして翌日、恒例の調印式が執り行われた。
一晩で憔悴しきったザハリムに代わり、実務はジャファルが行った。アンナからリ・エスティーネ王国の書状を受け取ると、書状を読み上げ“勇者顕現”を公式に宣言。「五大国の一員として勇者に協力を惜しまない」旨も宣言し、その証として書状に印をついた。
そして、リ・エスティーネ王国使節団は帰国の途に就いた。
その馬車の中、アンナは帰り際のジャファルの言葉を思い出していた。
「私は王子として、国を一夜で変えられない」
そして、苦笑いを浮かべるジャファルの顔。
「だが、この国が変わる“始点”に勇者の言葉を据えることはできる」
アンナのやり切れない思いを感じ取ったのか、ヤスコが言った。
「結局、奴隷制度は“凍結”かぁ」
現時点ではそうなった。奴隷制度の即廃止では無く凍結。今いる奴隷たちはそのままの身分だが、これ以上新たな奴隷を生み出さない事、奴隷たちを売買する事は禁じられた。
「でも、少しは良くなったんじゃないでしょうか」
と、手を組みながらユキナが言った。
今いる奴隷たちも勇者アンナの庇護下にあるとして、今までのような過酷な環境は認められない事となったのだ。
「そう、かな」
アンナはまだ不満げだったが、アリアが言う。
「残念ながら、今の私たちでは力不足ということだな」
「まだまだ私たちも頑張るから、アンナも元気出して」
リルルの言葉に微笑みを返すアンナ。
それよりも、とヤスコが言った。
「残念だったね、アンナ。イケメン王子を取り逃がしちゃって」
「ああ、そうだな。立派な人物だった」
「ええ、優しそうな人でしたね」
「お嫁に行けたら、一生安泰だったのにね」
四人の軽口に、アンナは頬を膨らませた。
「もう、やめてよね」
たしかにいい男だったけどとか何とか、
ぶつぶつ言うアンナに馬車の中は笑いで満ちた。
それを横で聞いていたエルザは騎乗したまま、
(あのペンダントから微量な魅了が感じられていたのは、言わぬが花。かな)
と笑い続ける馬車を見ながら一人思うのであった。
一方、エルザからの早馬の報告を受け、レオニス四世も一人思っていた。
(勇者の成長、それ自体は喜ばしい事、しかし……)
ううむ、と眉を寄せるレオニス四世は傍にいた聖母マリアに尋ねた。
「此度の勇者アンナの“宣言”。そなたはどう見る?」
聖母マリアはすっと眼を細め、微笑みに見える表情で、
「全ては女神の御心のままに」と答えた。
ふんっと鼻を鳴らしたレオニス四世は勇者アンナの“次”を思う。
(いよいよ五大国も残るは一つ。
かの地の者たちは“勇者”を“勇者アンナ”をどう見る?)
国王として、レオニス四世自身として。
勇者の行く末に深く考え込み、深く刻まれた皺は、しばらく消えなかった。




