第八話 勇者PTカルナードへ行く⑤
アンナたち使節団から離れ、
エルザはカルナードの街中を調べまわっていた。
重い荷物を一人だけで抱え歩かせる集団。
建築現場で汗だくになって働く男。
商店の前で身なりの良い女性の後ろで跪く女。
(やはり、この街ではこれが日常、……か)
夜も深まってきた頃、
エルザは貧民街の傍に広がるゴミ処理施設へ向かっていた。
入口を見渡せる建物の陰へと入り、
様子を伺っていると、
背中から声がかかった。
「!?」
忍んでいた自分に声がかかり、
鼓動が一つ跳ねたが、
振り返り見たその姿にまた一つ跳ねた。
「あ、あなたは!」
そこに立っていたのはリーネだった。
カルナード一の踊り子。歓迎の宴で妖艶な踊りで皆を虜としたあのリーネが人差し指を立ててそこに立っていた。
「しぃ、静かに。こちらへ」
そう言い、ゴミ処理施設の裏手へと歩いていくリーネ。
その姿にエルザは何も言えず付いて歩いた。
建物の二階へと上がり、窓から外を見ると、ゴミ処理施設の中が見えた。辺り一面静けさに満ちていたが、一か所だけ焚火が焚かれている場所があった。焚火を挟んで3人づつの集団が見え、一方の背には馬車が、もう一方には座らされ鎖でつながれた人々――。
(奴隷売買の現場か!)
エルザは息を呑む。しばらく見ていると、奴隷たちが立たされ馬車へと乗せられた。そしてそのまま三人のローブ姿の人影も乗り込み、どこかへと走り出した。残りの三人も火を消し、どこかへと歩いて消えた。
「これが、カルナードの“闇”」
静かに、とても静かにリーネは言った。
「あなたは、一体?」
「待っていたの。この時が来るのを、ずっと」
「待っていた?」
「ええ、私は踊り子。私では何も出来ない」
「しかし、それでは……」
「ええ、会えなかったかもしれない。それでも私は踊り続けるわ」
エルザはまた息を呑んだ。ひたすら待ち続けるというリーネの“覚悟”に。
「でも、会えた」
リーネはそっと手首をさすり、微笑むと、さらに言った。
「あのフードたち、……あの人たち、黒い息を吐いているのが見えたわ」
「そ、それはつまり……」
「魔族よ」
翌日、
アンナたち使節団一行は王宮の謁見の間でザハリム親子の前に立っていた。
「さて、アンナ殿の気持ちを聞きたいところ、
しかしお連れの方がお一人、姿を見せぬようだが……」
ザハリムの言葉を遮るタイミングでエルザが走りこんできた。
「大変だ!アンナ。魔族だ!
このカルナード内に魔族が侵入している!」
「何ですって!」
アンナたち使節団一行だけでなく、
カルナード陣営にも動揺が走る。
「静まれ、静まれ!」
必死の様子でザハリムが声を上げた。
「使者殿、それは何かの間違いでは?」
「いえ、現地の人から裏も取れています」
むぅとザハリムは唸り考え込む。
しかし、アンナが立ち上がり叫んだ。
「国王!ぜひ私たちに討伐許可を。
私は“勇者”としてこのまま魔族を見逃すわけにはいきません!」
凛とした立ち居振る舞いに場内は感嘆の息が漏れる。
しばらく何やら考え込んでいたザハリムだったが、渋々の体で言った。
「勇者殿にお任せするのは忍びないが、
それでもここはお願いしたい。任せてよいか?」
「ええ、もちろん!みんな、やるよ!」
アンナたちは気勢を上げ、ジャファルはそのアンナの姿を見ていた。
そしてペンダントを強く握りしめると、ジャファルも言った。
「父上、いや国王よ。彼女らだけに任せるのはあまりに無礼。
私も兵を率い、同行する。それでいいですね?」
任せる、と言ったザハリムの顔はますます渋くなり、
作戦会議よ、と言って出て行ったアンナたちの背に向け呟いた。
「エルザと言ったか、あの女。
余裕を見せて外出など認めねば。
レオニスの奴、やはり侮れんな。あのくそ爺ぃめ」
五大国同士の権力争い、その程度の考えだったザハリムだったが、
この戦いを境に、砂漠王国カルナードの行く末すら左右する、
とまでは考えが至らなかった。




