第八話 勇者PTカルナードへ行く③
焼け付くような陽光を避け、午前だけの旅程。
それでもアンナたちは汗を滴らせ、
ようやくリ・エスティーネ王国使節団の馬車は辿り着いた。
“オアス・ラジェム”、
砂漠王国カルナードの首都である。
その中心にある王宮へと門をくぐった途端、空気が変わった。
アンナが見上げると王宮を包むように薄い膜が見え、王宮の中は涼し気な風が流れている。ヤスコが所々に立つ塔からこの膜が張られていることを発見し、馬車を降りながら言った。
「あれがこの“エアコン”の発生源、みたいね。
これだけの設備、よほど、この国には“財力”があるらしいわ」
馬を降りたエルザが補足した。
「ええ、この国、カルナードにはたくさんのダンジョンがあり、それを管理運営することで成り立っている側面があります。それに噂では……」
エルザの話を遮るように番兵が声をかけてきた。
「お待ちしておりました。リ・エスティーネ王国使節団の皆さん」
そしてアンナたちは、
白いターバンにマントを羽織った番兵たちに王宮へと案内された。
「ようこそ、勇者アンナよ。
それにリ・エスティーネ王国使節団の皆さん。
私が国王のザハリム・カルナードです」
謁見の間の玉座に座るザハリム国王は、顎の下に弛みが見え、全体的に“ぽっちゃり”した体型であった。人当たりの良い笑顔で、細くカールさせた口ひげを撫でながら言った。
「長旅、大変でしたでしょう。今晩は歓迎の宴を用意させております。
詳しい話は後日として、まずは旅の疲れを癒してくだされ。ささ、」
そうザハリムが手を打つと、
給仕たちが謁見の間から宿泊場所へと案内してくれた。
その手際の良さに、
アンナたちはあれよあれよという間に宴の席へと付いていた。
王宮の庭に造られた特設会場。大きな舞台があり、それを取り囲むようにテーブルが並ぶ。月明かりの下、各テーブルに金の燭台が灯り、カルナードの名物料理を照らしている。新鮮な果物や、サボテン料理、トカゲのステーキなど、アンナたちは異国情緒溢れる料理の数々に舌鼓を打っていた。
そして、舞台に一人の女性が立つと、
「おお、リーネだ」「待ってました」と、あちこちから歓声が上がった。
静かな出だしから音楽が奏でられると、リーネと呼ばれた女性が踊り出す。
「綺麗ね」「ええ」リルルやユキナは見惚れ、
「真に迫るというか」「心に直接触れられているような」
アリアやユキナも夢中のようだ。
(確かに綺麗……、でもどこか泣いているような寂し気なものを感じる)
アンナはその踊りに美しさだけではないものを感じていた。
徐々に激しく、徐々に勢いが高まりその頂点で、一気に踊りが終わり、場は静けさに包まれる。
そして場は拍手喝采に包まれ、使節団の面々も立ち上がって手を叩いていた。
リーネは頭を下げ、アンナの方へと歩いてきた。
「紹介しよう。カルナード一の踊り子、リーネだ」
ザハリムの紹介に、リーネは再び頭を下げた。
「リーネといいます。よろしければ今後とも御贔屓に」
「素晴らしい踊りでした。激しく心揺さぶられ。
それでもどこか儚げな、寂し気な、胸がいっぱいになる踊りでした」
「そう言っていただけて嬉しいです。
心込めて踊った甲斐がありましたわ“勇者さま”」
リーネは頭を下げて、去り、熱狂冷めやらんままに宴を幕を閉じた。
歓声に包まれながらも、
アンナの胸の奥には、微かな居心地の悪さが残っていた。
翌日、謁見の間へと通されたアンナにザハリムは言った。
「どうですかな?カルナードは、お気に召していただけましたかな?」
「ええ、とても素晴らしい国だと思います」
「そこでな……」
ザハリムはすっと眼を細めると、
「勇者アンナよ。
是非我が国の王子、ジャファル、と婚姻を結んでいただきたい!」
「!?」
アンナの体が一気に硬直する。言葉は聞こえたが意味の理解が追い付かない。
《暁の翼》の面々や、リ・エスティーネ王国使節団にも混乱が広がる。
しかし、一人エルザは、(やはり、来たか)と唇をかみしめるのだった。




