第七話 継ぐ者はつらいよ③
寅二郎たちが酒場で大宴会となっていた頃、
パトラは侍女を伴い“虎穴”へと入っていた。
長老会総出で迎えられ、早速会談の運びとなっていた。
“虎穴”は陣のようになっており、
奥に洞窟の入り口が見え、
小屋がいくつかと陣幕が見えた。
パトラが陣幕の中へと入ると、
上座の床几へと腰を下ろした金虎族の族長がいた。
老いてなお、堅牢な鎧のようなその体躯に獣の気配を漂わせ、
静かに目を閉じていた。
その後ろには長老たちが平伏している。
パトラはその族長を見下ろす位置まで寄り、立ったままで言った。
「最近、私に言いたいことがあるそうだな?」
黒いローブ姿で身をすくませる長老たち。
畏れながら、と長老の一人が言った。
「魔王軍との戦いも激しさを増す中、我らの“力”を示すべき時かと」
「その魔王軍との戦い、“融和”でもって事に当たろうと。
そのためにこの“私”が獣人族代表として選ばれたはずだが?」
「そ、それは。しかし」言い淀む長老の背から、別の声が上がった。
「しかしそれでは誇りある金虎族の
“血”が薄まるばかりでは?」
パトラがそちらを向くと、
フードで顔を隠したままの者が一人。
低く通る声のその男の発言に、長老たちが騒めく。
「おい、貴様は黙っておれ」「パトラ様、これは」長老たちが騒ぐ中、
「“混じり児”の力では、金虎族の代々繋いだ“力”に及ばぬかと」
と、続けた男のセリフに、
一瞬、
パトラの髪が逆立ち、その身から力が漏れ出た。
その一瞬の圧に長老たちは一気に静まり、
パトラはそんな彼らを見下ろすように言った。
「このままでは埒が開かんな。ここはやはり、
我ら獣人族らしく決闘で決めるしかないか」
そして、目を閉じ、目を開く。
「お主ら全員と私で決闘と行こうではないか」
「何と!」「我ら全員と?」「パトラ様お一人で?」長老たちはまた騒めき、
「お主もそれでいいな?」とパトラはフードの男を無視して族長に言った。
「……決闘としよう」
それだけだった。
だが、その族長の一言で全てが決まった。
翌朝早くから、寅二郎たちは“顧問”と呼ばれる男の事を調べ始めた。ギルドで討伐依頼へと向かう前の者たちや、草原で訓練を行う兵士たちに訪ねて回っていた。
「薄気味悪い男だった」「フードの下の顔を見たことがない」「しかしいつの間にか“虎穴”にいた」等、話を聞くうちにどんどん寅二郎たちの不安は募っていった。そして、「隊長なら“顧問”に会ったことがあるらしい」と聞きつけ、三人は走り出した。
草原での演習場に隊長はいた。
肩で息をしながらも寅二郎が尋ねた。
「あんた、“顧問”ってのに会ったことがあるって?」
「ああ、だが今はもう長老たちの“顧問”。俺の口を出す問題では……」
「いいから特徴を、何か感じなかったか?」
「しかし、長老たちの意見に背くわけにも……」
口ごもる隊長に詰め寄り、寅二郎はその肩を掴み揺さぶった。
「頼む、大事なことなんだ。パトラの事だけじゃない。
あんたたちの未来にも関わるかも知れないんだ!」
必死で肩を揺さぶるその傷だらけの両手を見て、
隊長は考え、
そして――。
「分かったよ。教えるさ。確かに薄気味悪かったよ。
それにあの眼だ。何かこちらを見透かすような。
怖くて何も言えなくなっていたよ」
そこへ、若い兵士が走りこんできた。
「隊長!パトラ様と長老たちが決闘を――」
「パトラがやばい!」そう叫び寅二郎は走り出した。
走りながら寅二郎は思い出していた。ベルゼのあの“眼”を。
(人の心に入り込むような気持ちの悪い眼、“顧問”ってのは、魔族だ!)
ルゼリアの中にまで入り込んでいた魔族の存在。
パトラの力を信じつつも焦り、“虎穴”を睨みながら寅二郎は走り続けたのだった。




