第七話 継ぐ者はつらいよ②
寅二郎一行はパトラの用意させた馬車へと乗せられ、
今回の行先について説明を受けていた。
パトラはふぅと一つ息を吐くと言った。
「実は白虎族に次ぐ勢力、金虎族に反乱の噂があってな。
私は反乱など起こさせぬ様、釘を差しに行くところなのだ」
「反乱?穏やかじゃないな」
「ああ、それでなトラジロウ。
お前に金虎族の本音の部分を探って来て欲しいのだ。
いかんせん私の手の者では同族。言えぬこともあるだろうからな」
「なるほどな」寅二郎が頷くと馬車が停まった。
「ここから先は私からの依頼と思ってくれていい。
私は金虎族長老たちの住む“虎穴”と呼ばれる場所へ行く。
何か分かれば伝えに来て欲しい」
そうパトラから言われ、寅二郎たちは馬車を降りた。
馬車の進む先を見ると、山の裾野に草原が広がりいくつか遊牧民族の住む“ゲル”のような建物の集まる場所が見えた。山の中腹には陣が見え、馬車はそこへ向かっているようだ。
「しゃあねぇ、とりあえずあそこへ向かってみるか」
と、寅二郎たちは歩き出した。
道なりに進むと、金虎族の見張りらしい二人の兵士に出会った。
「何だ?お前ら人族か。何の用だ?」
一人が寅二郎を見下ろす位置まで近寄り言った。
「いやぁ俺たちは冒険者なんだが、旅の途中でね。
ここに泊れる場所は無いかな?」
寅二郎が見上げたままで言うと、
兵士たちは、胸を張りつつ言った。
「ここにだって宿屋や酒場はある。ギルドの出張所だってあるぞ」
「困っているというのなら、泊っていくがいい」
宿への道まで教えてもらい、歩きながらシドが言った。
「威圧的かと思いきや、あの親切。
悪い奴らではなさそうだが……」
「そうね。私たちを見下すというより、
庇護する対象って見ているような。
ねぇトラジロウはどう思う?」
リラが寅二郎へ顔を向けると、
寅二郎は考え込んでいるようで、
「やはり、もっこりが足りないな」
ゲシッ!っと二人に蹴られるのだった。
宿屋へと向かう途中、村で見たのは大抵、女性か子供の様だった。それを寅二郎が宿屋の女将に尋ねてみると、当然だというように女将が言った。
「男衆はみな、訓練か討伐依頼で出ているよ。
騒がしいのが好きなら、夜の酒場へ行ってみな。
大酒飲んで、騒いでいるのが嫌でも聞こえるよ」
夕暮れ時、宿屋の女将の勧めに従い、酒場へ向かうと入る前から騒がしい声が聞こえてくる。中へ入ると、金虎族の男たちが大声で騒いで酒を飲んでいた。至る所で腕相撲や酒の飲み比べ等が行われ大層騒がしく、耳を塞ぎたくなるほどだった。
「うおおお!俺の勝ちだ!」
「金虎族こそ最強よ!」
「“混じり児”なぞ何するものぞ!」
(“混じり児”?)
シドは眉を顰めつつも、寅二郎たちと席に着いた。
リラが給仕を呼び、酒や料理を頼むついでという風にシドが給仕に尋ねた。
「すまない、“混じり児”というのは?」すると給仕は声を潜め、
「ああ、多種族との混血の事ですよ。ここでは金虎族こそが至上!ですから」
そう言い残し、給仕は別の席へと歩いて行った。
(確かに別種族と子を為すと、純粋な力は下がるという。
それにそもそも出生率も下がる。
しかし、それで言ったら、パトラは――)
シドが考え込む間に酒や料理が運ばれるが、
「おい、見ろよ。人族がいるぞ!」
と、酔った金虎族の男が一人、絡んできた。
男が寅二郎たちの席へと近づき、
三人を眺めリラに視線が向いた辺りで寅二郎が立った。
「何か用かい?」寅二郎が男へ近づき相対すると、
「いいぞ!」「やれやれ!」「金虎族の力見せてやれ!」
と周りが囃し立て、男が言った。
「おい!人族。お前の力を見せてみろ!」
そう言い、体当たりを仕掛けてきた。
寅二郎はがっぷり四つで受け止めると、体を捻って男を投げ飛ばした。
ドガン!と男は壁に打ち付けられた。
「おいおい、飲みすぎじゃねぇか?」
と、寅二郎が投げ飛ばした相手を見ると、
「何だよ!お前の負けだな」
「金虎族の恥だな」
周りから散々笑われながら、
「いやぁお前強いな!酒だ!酒!」
そう笑い、寅二郎へと酒杯をすすめ、
何だか分らん内に寅二郎を交え、大宴会になっていた。
「ううむ、金虎族。よくわからんな」
「でもやっぱり悪い人たちには見えないね」
シドとリラは寅二郎たちの大宴会に夜遅くまで付き合わされたのだった。
「もう呑めねぇ。あいつら強すぎだろ……」
そう言い、酔いつぶれた寅二郎をシドとリラの二人で支え、宿へと帰った。
宿屋へ戻ると女将が言った。
「ははは、大分やられたね。でも根は気のいい奴らさ。
金虎族が一番だ。金虎族が代表であるべきだ。なんてのはつい最近さ」
「つい最近?何かあったのか?」シドが尋ねた。
「ああ、最近長老会に“顧問”とかってのが来てね。それからさ」
女将の言葉に、
(“顧問”?何か嫌な予感がするな)
シドは胸が騒めくのを感じていた。




