第六話 解放はつらいよ④
ファルディーンの勧めにより、
城に泊めてもらえることになった寅二郎一行。
部屋へと案内される中、シドの歩みは少し遅れていた。
(……おそらく、あれは“治療”じゃない)
シドは歩きながら、ファルディーンの言葉を思い返していた。
(《キープ》は空間を固定する魔法。
だが、固定されたのは“傷”じゃない。“寅二郎自身の在り方”だ)
世界樹に触れ、流れを自覚したことで、
彼自身が“保存される側”であることをやめた。
(……だから解けた。解放されたが、刻まれた事実だけは残った)
――そして、その事実は、もう二度と“なかったこと”にはならない。
シドがそう考えた、その時だった。
城の奥から、低く長い音が響いた。
――定例会議の合図だ。
“フォレスト”内の会議室。
丸テーブルを囲う形でルゼリアの各代表が席についている。
ルゼリアの旗の下、中央に耳長族代表、ミレイア・フォレスタが。
そして、もう一つの席には獣人族代表パトラが。
最後の一席には、小人族、ドワーフ代表のボルカン・ストヤノフが座っていた。
――ボルカン・ストヤノフ。豪華な椅子も手狭に感じさせる大柄な体躯。赤銅色の短い髭。火傷跡の残る腕を組み、眼を閉じ会議の始まるのを待っていた。
「それでは、定例会議を始めましょう」
ミレイアの言葉に、ボルカンが眼を開いた。
ドワーフたちが作る大地炉議会首座。武器・通貨・要塞建築の各代表を取り仕切るボルカン。血の気の多い彼らを時になだめ、時に力で黙らせる男がその重く低い声を発した。
「噂の、ステータス“0”勇者が来ているそうだな」
「ええ、“コルダ丘陵”の件で、ファルディーンに会いに」
ミレイアが答え、パトラがボルカンを睨み言った。
「あれは私の婿にする。ボルカン、手を出すなよ」
「ふん、聞けば振られたそうではないか、パトラよ。いい気味だ」
「何だと!」二人の会話に苦笑いでミレイアが割って入る。
「その話はまた後で。
それよりパトラ、報告があるのでしょう?」
ミレイアの言葉に姿勢を正し、パトラが言った。
「ああ、身内の話だ。金虎族に反乱の兆し在り。
私が出向くので、少々騒がせることになるかもしれん。それだけだ」
「金虎族と言えば、規模は白虎族を凌ぐと聞くな。
“大きな声”はなかなかに厄介よな」
ボルカンはすっと眼を細め、
「パトラ、一人で大丈夫ですか?」
ミレイアも心配の声を上げる。
「なあに、私が行って言い聞かせるさ。
私自身の“声”で――
それが、まだ通じるならな」
パトラは深く息を吐くと続けた。
「それに、あの男を連れていくことにする」
そしてパトラは窓の外に見える世界樹を眺めた。
こうして本人の預かり知らぬ間に、
寅二郎の次の目的地は決まっていたのだった。




