第六話 解放はつらいよ②
白虎族の女王、パトラと寅二郎一行は中央大通りを一緒に歩いていた。
とかく存在感の塊と言えるパトラに街の人々も畏怖と畏敬の視線を送ってくる。
しかし、そんな視線も一向に意に介さず寅二郎が言った。
「いやぁ助かったよ。パトラ。一時はどうなることかと」
「構わぬ。未来の婿の為、甲斐甲斐しい妻の姿も見せておかんとな」
パトラは笑顔で答え、シドへと顔を向ける。
「それに、お主の気迫もなかなかのものだった。
『トラジロウは私たちに必要なんだ』、だったかな?シドよ」
いきなりパトラに話を振られ、シドは背中に冷たいものを感じた。
(まさか、リラ同様、私の事を……)
シドが女性である事。それを寅二郎には伝えていない事。それらの“秘密”が見抜かれたのかと気が気でなくなってしまった。それでも、出来る限りの作り笑顔でパトラへ返した。
「ええ、魔王討伐にはトラジロウの力が必要なので……」
求めた表情では無かったのか、
パトラはふん、と鼻を鳴らしつつ、
「確かに今はまだトラジロウの、“勇者”の力は魔王討伐には有用よな」
パトラとシドの雰囲気に“女の闘い”を感じ、リラも息を呑む。
そんな中でも寅二郎にはどこ吹く風、
「あれは何だ!?」と楽しそうな声を上げ指を差した。
寅二郎の指さす先を見上げ、パトラが言った。
「あれが、首都リュゼリオンの中枢“フォレスト”よ」
世界樹の麓に大きな樹が見える。しかし、どこか城の様にも見える。あちらこちらに旗が飾られ風に揺れている。樹の幹に窓や扉が見え、樹の所々に踊り場のような場所が見える。そこにはエルフが見張りの兵士として立っており、踊り場へは大きな階段梯子がかかっている。つまり、ここは木で出来た城では無くて、樹に出来た城だった。
まさにファンタジーなこの光景に寅二郎のみでなく、
シドやリラも感嘆の声を上げた。
「こいつぁすげぇ」
「ああ、見とれてしまうな」
「まさに神秘ね」
三人の声に満足したのかパトラが言った。
「ルゼリアの民の力の結晶よ。
さあ国主ミレイアに会いに行くとしよう」
そうして、正面の大きな階段梯子を上り、
国主ミレイアのいる謁見の間へ通された。
パトラを先頭に、
後ろに寅二郎たち三人が並び、三人は膝立ちの状態で頭を下げた。
「ようこそ。
私がルゼリアの国主を任されているミレイア・フォレスタです。
ふふ、パトラが男の人を連れてくるとは珍しい」
ミレイアの言葉に、パトラが「ふん」と鼻を鳴らす。
優しく包み込むような涼し気なその声に、
寅二郎は思わず顔を上げた。
輝くような金髪に横に伸びた耳、人形のように整った顔には微笑を浮かべ、白ローブに身を包んだその姿は神聖さすら感じさせた。それでもこの男はこうなった。
「おお!もっこりエルフ美女!」
ドゴゴン!
すかさずパトラ、シド、リラの攻撃を受け寅二郎は床に転がっていた。
「早速だが、ミレイアよ。この男の、トラジロウの話を聞いてやって欲しい」
寅二郎に食らわせていた後ろ蹴りを引っ込めつつ、パトラが言った。
「それなら、私が代わりに説明を」
シドも寅二郎を殴った左手を拭きながら言った。
そうして、寅二郎が空間魔法、《キープ》を受け、手がまともに動かないこと。ファルディーン・アウレルに治療を頼みたくてここまで来たことを説明した。
「治療、ですか。パトラの勧めもあることですし、
ファルディーンに会わせることは構いませんが……」
ミレイアはじっと寅二郎を見つめたが、ふっと息をつき、
「いいでしょう。案内させましょう。
……あの人は、世界の流れを聞く時、いつも世界樹の下におります」
と側の者を呼びつけ、案内を頼んだ。
「私とパトラはこれから会議へ向かいます。
あとはファルディーンと話してみてください」
「トラジロウ、お前の力、頼りにすることがあるかもしれん。またな」
そう言い残し、ミレイアとパトラは歩いて行った。
「ではファルディーンのところへ案内します」
というエルフ兵に三人は付いて歩き出す。
ファルディーンがいるという世界樹は、
ただ静かに世界を見下ろしているのだった。




