第五話 モテる男はつらいよ③
白虎族の女王パトラにこちらの行動を知られていた事実に、シドはじっとりと全身に汗をかいていた。リラはまだその話の核心に気付いていないようだ。
「そもそも“英雄召喚”はリ・エスティーネ王国の専売特許ではない」
“英雄召喚”の言葉にシドは思わず拳を握る。
「ステータス“0”?色ボケ勇者?そんなことは本質では無い。
“コルダ丘陵”のような戦場を生き抜く、その“力”こそが勇者の力よ」
パトラの指摘に、今まで黙っていた寅二郎が言った。
「なあ、俺、そんな立派なもんか?」
「ふふ、本人は自覚無しか」
パトラが微笑み、続ける。
「勇者の力、その血で持って我ら白虎族の未来に役立ってもらう」
「どういう事だ!」シドが叫んだ。
「トラジロウよ、我が婿となり白虎族の未来へと血を繋いでもらうぞ!」
「馬鹿な!トラジロウは魔王討伐の切り札だ!」
「知らんのか?勇者PT《暁の翼》の活躍を。《光輪の乙女たち》の詩を」
シドは知っている。
アンナたち勇者PTが順調に成長していることを。
しかし、シドが感じているのは別の事だった。
(トラジロウがいなくなる?)
隣にいる相棒の存在感、それに対する信頼、安心。
それがいなくなることへ恐怖している自分がいた。
その心の正体を確かめる前に叫んでいた。
「それでもトラジロウは大事な戦力!
ここで眠らせるわけにはいかん!」
「交渉決裂といったところか。それでどうする?
ここは獣人族の掟に倣い、決闘でもしてみるか?」
パトラはシドを睨みつけると、
背中から青白い炎を立ち上らせた。
そして薄い唇が開かれ牙が光る。
まるで獲物を嚙みちぎるのを待っているように。
パトラから発せられる王者の覇気に、
ぐっとこらえてシドが言った。
「いいでしょう。受けて立ちます」
その瞬間、観客席にいた獣人たちが一斉に雄叫びを上げた。
「おおおおおおおおおおおお!」
「それでは明日、場所はここ。
私とシドで決闘を行う!
トラジロウは牢獄へと連れていけ!」
パトラの命に侍従たちが、縛られた寅二郎を抱えて出て行く。
抱えられたままの寅二郎はポツリと言った。
「未来とか血とか言われても、正直ピンと来ねぇ」
獣人たちの雄たけびが続く中、シドとパトラの決闘が決まったのだった。




