第五話 モテる男はつらいよ②
寅二郎たちの乗る乗合馬車が街の停車場に着いた途端にそれは起きた。
「お前がトラジロウだな」
虎顔をした、獣人族の兵士だろう二人が寅二郎に声をかけた。
「確かに俺が寅二郎だが、何の用だ?」
「我らが女王パトラ様がお呼びだ。ご同行願おう」
そう言うと、すたすたと歩き出してしまう。
三人は困惑してしまった。
「何だ?一体。いきなりすぎるだろ」寅二郎が言い、
「何かの依頼だろうか。しかしトラジロウご指名とはな」シドも首をかしげる。
「とにかく話を聞いてみるしかないわね」リラは不安げな表情で言った。
「ま、女王様なんて俺らじゃなかなか会えないだろうしな。
もっこりしてくれ、なんて言われたら即ОKしちゃうよ?ぐふふ」
「お前のその能天気さ、たまに羨ましくなるよ」
「ホント、心配して損しちゃった」
軽口を言いあいながら、
三人が連れてこられたのは“テラス”だった。
観客席部分に多くの獣人たちが並び、
舞台へと連れてこられた三人を見下ろしている。
しかし、誰一人言葉を発せずただ静かに待っていた。
女王パトラが言葉を発するのを。
石造りの舞台から見上げた先、
貴賓席のようなその玉座に一人の女が座っていた。
その姿は一見すれば人族と変わらない。
だが、肌の白さは陶器のように不自然で、白く輝く髪。
その頭には――人のものではない“跳ね”が二つあった。
「お前がトラジロウだな」
パトラが玉座から立ち上がった瞬間、
寅二郎の視線は否応なく引き寄せられた。
引き締まった体躯、
その上に載るような胸甲、
そして、抑えきれない存在感を主張する双丘。
「おお!グラマラスもっこり!」
条件反射のようにパンツ一丁で空中を泳ぐ寅二郎。
その体にはいつの間にか縄が絡まっていた。
パトラの両脇にいた侍従から伸びたその縄は、
寅二郎を縛り付け床に叩きつけていた。
「ぐえ!」
「トラジロウ!」
シドとリラがすぐさま身構えるが、パトラが言った。
「本当に噂通りの男よな。元気の良い“種”だ」
シドはそのパトラの目を見て、息を呑んだ。
大きな瞳の奥で、金色の瞳孔が縦に細く絞られている。
獲物を測る獣の目だ。
それでもパトラの言葉にシドは叫ぶ。
「何のつもりです!女王パトラよ」
三人を見下ろしたまま、パトラが言った。
「お前たちのことは聞いている。大層ご活躍のようだ。
“勇者の末裔の村”の件、“水源の村”の件、
ダークエルフ、ブラククの事件もな」
自分たちの事を調べている者がいる。
そのことにシドとリラに衝撃が走った。
「それに、知っているぞ?
“コルダ丘陵”の裏でもお前たちが動いていたことを――」
(まさか、そこまで!)
立て続けにシドを襲う衝撃はパトラの言葉でさらに加速していくのだった。




