第五話 モテる男はつらいよ①
寅二郎の手を治療してもらうため、
いつものように乗合馬車で世界樹へと向かう一行。
ダークエルフの司祭、ブラククの事件が後を引き一行の雰囲気は暗かった。
しかし、その空気を変えようとしたのか寅二郎が言った。
「まぁ事件は解決したわけだし、元気出していこうぜ」
「しかし、被害者のあの様子を見ているとどうも、な」
心のどこかで何かを失い、
呆然とする者、泣き続ける者がいた。
シドもその姿を忘れることは出来ず声も小さい。
「私も寄り添ってあげることくらいしか……
私の力のなさが、情けなくて」
被害者の家々を周り、その心に寄り添い続けたリラは目を伏せた。
「リラちゅわんが寄り添ってあげたことで、前を向けたって人も居たろ?
リラちゅわんは出来る限りをやった。それでいいんじゃねえか?」
寅二郎は馬車の明かり取りから見える空を見上げた。
「ああ、俺にも寄り添ってくれるもっこりちゃんが早く欲しいぜ」
そのセリフにはすぐ反論が来た。
「無理だな」
「そうね、トラジロウじゃね。すぐ、もっこりとか言うし」
「お前にはデリカシーが無さすぎる。それでは女が寄り付かんだろう」
シドとリラ、二人の辛辣な寅二郎評にムキになって反論する。
「馬鹿やろう、俺に足りないのは知名度だけだ。
俺という男を知れば、
そこらのもっこりちゃんが向こうからやってくるっての!」
負け惜しみにしか聞こえない寅二郎の反論に二人はため息で返した。
そして、馬車の行く周りの景色が変わった。
今までの森の中から一転、草原へと抜け出たのだ。
「そろそろ次の停車場に着きますぜ」
御者の言葉に三人は幌から顔を出し、シドが指差し言った。
「おい、あれは何だ?」
「ここから先は獣人族の代表、
パトラ様の支配地域。
通称“ガーデン”でさぁ」
草原の先に確かに街が見える。
しかし、今までの街では見なかったものがそこにはあった。
それはローマ時代のコロッセオ、闘技場のような建造物が建っていた。
石造りの舞台とその奥に半円状に作られた観客席のような階段。
その中央に豪華な貴賓席が見えた。
「そしてあれがパトラ様のおわす城、“テラス”でさあ」
闘技場が城。
力自慢の多そうな、なんとも獣人族らしい建物に三人は興味をそそられた。
「何だかイメージピッタリだな」
「ああ、異文化との出会いはこれだから面白い」
「パトラ様ってどんな人なんだろう」
ようやく三人の空気も和らぎ、
会話も街の様子やパトラの人柄など楽し気に予想しあった。
しかし、街で寅二郎にいきなりの“モテ期”が来ることなど知る由も無かった。




