第四話 探究者はつらいよ⑤
絶叫が届いた瞬間、シドが指差し叫ぶ。
「あそこだ!」
それは一区画前の十字路。
二人が一斉に走り出す。
角を曲がったところでそれが見えた。
リラの頭を押さえつけ、絶叫するブラククの姿。
「……無い?
なぜだ……知っているはずなのに……
なぜ、何も“掴めない”……!」
押さえつけられ震えるリラは、
それでもか細い声で返していた。
「私は……答えを持ってないだけです。
でも、聞くことは……できます。ブラククさん」
「リラを放せ!」
寅二郎は一直線にブラククへ殴り掛かり、吹き飛ばした。
壁にぶつかり血を吐いたブラククは、へたり込みながらも言った。
「……奪っても、奪っても、
皆、私と同じ顔をするだけだった……
空っぽの……答えを持たぬ顔に……」
地面に手を突き、リラを見つめ立ち上がろうとする。
「誰もが願い、誰かが持っているはずなんだ」
血を拭い、がくがくと震える足で、それでも立ち上がりブラククが叫んだ。
「“答え”が知りたいだけなんだ!
教えてくれ!《メモリードレイン》!」
自分の頭を両手で掴み、ブラククはそのまま動かなくなっていた。
リラを立ち上がらせ、三人がブラククへと近寄ると、小さく声が聞こえた。
「なぜだ……ただ知りたかっただけなのに……」
そして、シドがブラククの様子を確認し、言った。
「死んでいる」
リラは息を呑み、寅二郎は夜空を見上げた。
ただただ答えを追い求めた男の最期に、
「依頼は完了だな」
と言った寅二郎やシドやリラの心には、
夜風のように寒いものが通り過ぎて行った。
翌朝、三人はギルドへ依頼完了の報告へ行った。
「《メモリードレイン》ですか?私も詳しくはないのですが……」
と、前置きし受付の男が言った。
「どうやら知識そのものというより、使用者の知りたいことの“核”みたいなものを奪うってもののようですよ。人の記憶全部なんて到底奪いきれませんしね」
報酬を受け取り、ギルドを出たところで寅二郎が言った。
「ようし!報酬も手に入ったし今晩は豪勢に行こう!飯だ、飯」
空元気だとすぐわかる白々しさに、
何も言わないシドだったが、リラが言った。
「お願いがあるの」
そう言うとリラは、今回の被害者の家々を訪ねた。
一人一人に依頼達成の報告をし、
被害者の今の心境や暮らしぶりを丁寧に聞いて回った。
呆然としていたり、訳も分からず泣く被害者に、
リラはただ寄り添い話を聞いた。
リラのそんな姿を見てシドが言った。
「俺にはブラククの求めていたものは分からん。
だが、リラのあの“寄り添い続ける”姿こそが答えなのかもな」
「さあな、俺にもわかんねぇよ。人の気持ちなんて。
無理やり答えを掴もうとしたブラククが逝き、
答えも求めずただ人の心に寄り添うリラが生きていく、
それで俺には十分だ」
夕暮れ、リラと三人で宿へと戻る途中、寅二郎が言った。
「ああ、俺にも寄り添ってくれるもっこりちゃんが欲しいぜ」
シドに尻を蹴られ、リラに微笑まれたが、
その日の夕食はどれも何か苦く感じたのだった。




