第四話 探究者はつらいよ④
月明かりだけが照らす道を三人は歩いていた。
住宅街なのかどの窓にも、すでに明かりが点いていなかった。
少し肌寒い風が吹き、時折遠くから酔客の声が聞こえた。
先程から歩く速度の遅いリラを気遣い、寅二郎が言った。
「どうした?リラちゅわん。寒いのか?」
「いえ、そういうんじゃないけど……」
二人が立ち止まっていることに気付いたシドが走り寄ってきた。
「やはり、場所に意味があるようではないな。
人に狙いをつけて尾行し、隙を見つけて襲っているようだ」
三人で次の動きを相談しているところへ、声がかかった。
「おや、こんな夜分にどうされました?
いや、そうか早速辻斬り事件を追ってくれているのですね」
そう声をかけてきたのは司祭ブラククだった。
「司祭!どうしてこんなところに」
「ブラククさん、一体どうしたんです?」
シドとリラが、不意の遭遇に声を上げる。
「いえ、私も気になりましてね。逮捕する!とまでは言わないが、
この街の住人として、夜回りをしていたところで」
そう言いこちらへとブラククが歩いてきた。
寅二郎だけが何も言わず、一歩リラへと体を寄せていた。
「よければご一緒しても?
この先にも被害者が襲われた場所があるのですよ」
そうしてブラククも加わり4人で夜の街を歩き出していた。
シドが先頭を行き、寅二郎が続く。
その後ろでリラとブラククが話し込んでいた。
「どうしました?リラさん。元気が無いようにお見受けしますが」
「いえ、そういうわけでは無いのですが」
「よければ私に話してみてくれませんか?
実は私、こう見えて聖ローマン教の司祭、なのですよ」
ブラククが冗談めかして言い、リラも笑みを浮かべた。
そうしてしばらく歩く4人だったが、
話し込む二人の距離が、先を行くシドや寅二郎と開いた瞬間。
黒い靄が立ち上り、あろうことかシドも、ましてや寅二郎ですら――
リラがいなくなっていることに気が付かなかった。
「おい、トラジロウ、そろそろ次の現場だ」
そう言いながらシドが振り向いた時、
シドが声を上げ寅二郎の方へ走り出した。
首をかしげる寅二郎にシドの叫びが響く。
「リラがいない!どこだ?トラジロウ何してた!」
「何って、リラなら後ろに」
いやな汗を感じながら振り向く寅二郎は、
瞬間、背中につららを詰められた錯覚を覚えた。
そこには、黒い靄を残してリラもブラククの姿も無かった。
「これは!闇魔法の《デコイ》か。やられた」
「おい、どういうことだ?」
「《デコイ》は偽物の気配だけ作り出す初歩の闇魔法。
逃走中に使ったりする、いわば“囮”を作る魔法だ!」
「それは、つまり……」
「ああ、ブラクク、奴が真犯人だ!」
最早全身汗まみれといった気分の寅二郎。
強く強く握る拳から再び血が滴る。
「まだ、遠くまで行っていないはずだ!
探すぞトラジロウ!」
来た道を返そうと走り出す二人に絶叫が届いた。
それは単なる殺人鬼の雄たけびでは無かった。
それはただ、答えを求める一人の男の心から出た、絶望だった。




