第二話 “オカン”はつらいよ
とある街のギルドの受付では珍しい光景が見られた。
それはリラが、寅二郎とシドを従え依頼を受注している姿だった。
「すみません、この依頼受けさせてください」
このセリフにギルド内がざわついた。
「おお、さすが“オカン”」
「あの依頼を受けるとは……」
ギルド内がざわつく依頼。それを受注したのはリラ。
この光景の謎を解くには時間を遡らなければならなかった。
――そもそも。
ハヤトたちと別れ、この街へと乗合馬車で到着した寅二郎一行。
馬車から降りた寅二郎とシドは、
目を合わせると、いの一番にギルドへと歩き出した。
リラも特別何も考えず二人に付いていき、ギルドの扉の前で言った。
「ねぇ、ギルドで依頼受けるの?急ぐ旅じゃないの?」
それに答えたのはシドだった。
「ああ急ぐ旅だ。しかしこれも重要なんだ」
「え?どういうこと?」
困惑するリラと、沈黙する二人はギルドへと入る。
リラの質問に次に答えたのは寅二郎だった。
「実はな、……実は、金が、無い」
「は?」
「リラの件でもらった金が底をついた。この先の宿代もピンチだ」
ギルド内に響き渡る声でリラが叫んだ。
「はぁあああああああああああああ?」
リラの件、コルンハーグで娼婦をしていたリラに貢がれた宝飾品等。リラの護衛依頼の先払いという名目でもらったそれ。向こう半年は普通に暮らせるはずの金。それがもう無いという。
リラは泣き笑いの寅二郎を睨みつけ、次にシドに言った。
「どういうこと?」
「はいぃーーー!」
反り返るほど背筋を伸ばしたシドが言った。
「馬を買ったり、馬車を買ったり、
それに毎晩外食でいい物食べたりしたろ?
それで無くなってしまったんだ」
「この前のハヤトの件、村からは依頼として報酬がでてたはずだよね?」
俄然勢いよくシドが言った。
「ああ、依頼料は出た!
しかし、寅二郎が……」
「あ、てめぇ――」
シドと寅二郎が睨みあう。
「トラジロウ!」
「はいぃーーー!」
今度は寅二郎が反り返る番だった。
「トラジロウが
“ハヤトたちの見舞金にでも使ってくれ”
と言って返してしまった」
シドのセリフにゆらりと寅二郎へ振り返るリラ。
その背中からは赤黒いオーラが立ち上っている。
「ち、違うんだ、リラ!
あいつらもつらい目にあったわけだろ?
だからしょうがないんだ」
「だからってそれで私たちがこれじゃ駄目じゃない」
「……ていうか」
「二人とも正座!」
リラの怒号の瞬間、二人は正座していた。
「トラジロウの性格はまぁ“コレ”だからしょうがないけど、
シド!“オトン”なんだからしっかりしなさい!」
「はいぃーー!」シドの返事はとても素直だった。
「シドの奴、怒られてやんの」
舌を出しシドをからかう寅二郎に雷が落ちた。
「トラジロウ!」
「はいぃーーー!」
「もうトラジロウもシドもこれじゃ駄目ね。私も甘えていたみたい。
これからは私も金銭管理に口を出す。いいわね?」
有無を言わせぬ迫力に二人は声を合わせた。
「「はいぃーーー!」」
それでも怒りの収まらない様子のリラに寅二郎が呟く。
「こえぇこえぇ。これじゃ“オトン”を超えた“オカン”だな」
「“オカン”?何だそれは」
「前世では、誰も言い負かすことが出来ない至上の存在、それが“オカン”だ」
寅二郎とシドの呟きにギルド内も騒めく。
「あれが伝説の“オカン”」
「確かに勝てる気がせん」
にわかに騒めきだしたギルド内にリラの叫びが轟いた。
「ホントにわかったの?」
「はいぃーーー!」ギルド内全員の声がそろい、
“オカン”誕生の瞬間に立ち会うことになったのだった。




