第四話 兄妹はつらいよ③
リラとマーリン、凄絶な半生を生き抜き今再会した二人。
いまだ声も無く泣いているリラを横目に見ながらシドが言った。
「すまない、俺たちは魔王を探さなければいけないのだが」と寅二郎を見る。
寅二郎はマーリンの前で両手を見せた。
「治癒魔法でも治らなくなってな。力がまともに入んねぇんだ」
しばらく寅二郎の手を、手の平、手の甲、
そして傷の具合と確認したマリーンが言った。
「ふむ、これはひどい。まるで呪いのように絡みついている。
まるで、と言ったのは闇属性で言う呪いとは違う性質だからだ」
「呪いの様で呪いじゃない?」
問答のような物言いに寅二郎が首を捻る。
「闇属性の様に“この状態にして傷つけてやろう”という負の感情ではなく、
“この状態が正しい状態だろう?”という無の感情とでもいおうか」
さらに意味が分からなくなった寅二郎。
その首は捻りすぎて今にも落ちそうだ。
「闇属性なら聖属性で払える。
だがこれは無属性の空間魔法、《キープ》だろう。
随分悪意を感じる厄介な仕掛けだ。
心当たりはあるのかい?」
寅二郎の頭に決着した瞬間のあの男の顔が浮かんだ。
「ベルゼの野郎の仕業か!いてて」
思わず拳を握り声を上げる寅二郎。
「あの男、死んでもまだ厄介な」シドも声を上げる。
「とにかく聖属性の治癒魔法では効果が薄い。
空間魔法を解除しなければ」
マーリンの提案に二人は頭を捻る。
「そうだなぁ、亜人共和国ルゼリアの“魔術部隊”、
エルフたちの長ならば何かいい手が浮かぶかもしれん」
「ルゼリア」「エルフ!」若干違う反応を見せながら二人は顔を見合わせる。
三人の話を聞いていたリラが小さく声を上げた。
「次はルゼリアへ行くの?」
三人の顔がリラに向かう。
「私も……行く」涙をぬぐいながらリラが言った。
「ああ」「頼むぜ!」二人はリラに駆け寄るが、マーリンは叫んだ。
「何故だ!ようやくこうして会えたのに!
ここで“二人”で生きていこう!リラ」
マーリンは叫びながら、一歩一歩リラへと近づく。
「“地獄”から帰ってきたのだろう?
今度こそ私が守るよ!命を懸けても!」
再び涙を流すマーリンに、困ったような顔を向けリラが言った。
「ごめんなさい、兄さん」
その言葉に息を呑み、マーリンが立ち止まった。
「でも“地獄”から帰ってきたからこそ思うの。
もう“守られる”だけではダメなんだって」
今度はリラからマーリンに歩み寄り顔を見上げる。
「“いい子”で居たいからこそ、
私は一人で立たなくちゃいけないの。分かって?兄さん」
マーリンはリラを抱きしめ、泣き続けた。
その様子に席を外そうとした寅二郎とシドの背に声がかかった。
「待ってくれ。
せめて今晩はここに泊って行ってくれないか」
「ああ」
「助かる」
三人は大聖堂横の寄宿舎に泊ることになった。
寅二郎とシドは同部屋となり、旅の予定を話し合った。
隣の部屋ではリラとマーリンが昔話で今までの二人の時間を埋めているのだろう。寅二郎が眠りに就こうとしてもまだ話し合っている様子が漏れ聞こえていた。
「ありがとう、二人とも。
おかげで“家族”の時間を取り戻すことが出来た」
遅くまで話し合っていたのだろう、マーリンの目の下にはクマが見える。
「もう、その様子じゃあのときみたいじゃない。
しゃんとしてよね!兄さん」
さえない司祭を演じていた頃のマーリンを思い出し、笑い出すリラ。
「ああ、そうだな」マーリンも笑い背筋を伸ばした。
「では、そろそろ行こうか」シドが歩き出し、
「おう!行くぞルゼリア!いてて」
思わず拳を振り上げ痛みに顔をしかめる寅二郎。
「もう、相変わらず馬鹿なんだから」
リラが二人の後を歩き出す。
コルンハーグへと送り出したあの時と同じ、和やかな様子。
安堵の表情を浮かべるマーリンはまた、この先の旅の無事を祈るのだった。




