第四話 兄妹はつらいよ②
しばらく泣き続けたマーリンだったが、ようやく落ち着いたらしくリラから離れると皆に向けて話し始めた。
「済まない、情けないところを見せてしまったね」
大司祭としての威厳を取り戻し、背筋を伸ばす。
「実はリラは、ここにいるリラは私の生き別れた妹なんだ」
「!?」リラと寅二郎が息を呑む。
(やはりそうか)シドは一人納得した表情で立っていた。
「私たちはもともと戦災孤児でね。アウグスブルクのスラム街に居たんだ」
両親は帝国の兵士だったようだが、戦死したようで身寄りも無かった二人はスラムに流れ着いたという。
「生きることに必死だったよ」
残飯あさりやスリ等の犯罪にも手を染めた。
その日を二人で生き抜くために。
リラは朧気ながら遠い日の記憶が蘇って来ていた。
「だが、その日は突然やって来た」
マーリンは再びリラを見た。
「帝国の“スラム浄化作戦”が始まったんだ」
浄化とは名ばかりの奴隷狩りだったという。
「リラと私は捕まり、別々の場所に連れていかれた」
そして、マーリンが連れてこられたのがこの聖ローマン教の大聖堂だった。
「私は誓った。ここで帝国と戦い続けることを。
リラと生きて再び会うために」
そして、
聖ローマン教で研鑽を積み、
位を上げ帝国を調べ始めた。
同時にリラの行方を探させていた。
その中で出会ったのが殺されたあの“上客”だった。
マーリンは一度言葉を切った。
「あの男には悪いことをした」マーリンは俯いて言った。
「元々は熱心な信者でね。お互いの身の上話まで出来る間柄だった」
しかし、
その結果男は帝国の闇へと足を踏み入れリラの行方までたどり着き死んだ。
「出来る男だったわけだな」寅二郎の声もいつになく沈む。
「ああ、それにマーリン、リラの人生も大変なものだな。
あの男も含め、帝国の陰謀に翻弄された“被害者”だったわけだ」
シドがやりきれないといった表情で上を向く。
リラの頭の中では過酷な半生が蘇っていた。小さかった頃孤児としてスラムで暮らしていたこと。浄化作戦の結果、娼館に入れられ娼婦としての所作を叩きこまれたこと。娼婦として自由も無く客を取る日々。
しかし、
ある場面を思い出したリラが声を上げた。
顔も思い出せない母と兄、そして小さい自分が語り合うあの場面、
『じゃぁね、私たちは行かなくちゃ。
生きて帰ってくるからいい子で待っててね』
泣きじゃくる兄と自分、そして母の名を叫ぶ自分。
「お母さんの名前は?」リラが呟く。
「マローニ、母の名はマローニだ」
マーリンが返した瞬間、リラは泣いた。
子供の様に泣きじゃくるリラに、
声を掛けられる者はここにはいなかった。
ただ、コルダ丘陵のでの魔王軍、陰謀を張り巡らせる帝国、その大きな力に虐げられるのは弱い人たち。その構図に怒り、痛みも忘れて拳を握る寅二郎だった。




