~第98夜~「オニ祭り(その2)」
いよいよ、オニ祭り当日の夜。
日が暮れかける頃から、ぞくぞくと集まってくるオスのオニ、メスのオニたち。
あちこちで屋台が建てられ、「串焼き肉」や「イカ焼き」「焼きそば」などが売られていて、さながら人間のお祭りのよう。
日もどっぷりと暮れてくると、いよいよ本格的に祭りの始まりです。
オニ族に伝わる伝統的な衣装である「トラのパンツ」をはいて、オスオニどもがわらわらと入場してきます。それを地べたに座って眺めているメスオニたちは、これまた伝統衣装である「トラ柄の服(メス用は、ちゃんと胸まで生地が覆っている)」を身につけています。まるで大阪のおばちゃんですね。
一説によると、オニの生き残りが大阪に住み着いて、現代の文化を形成したのだとか。だから、あんな風にあつかましく、かつあたたかい性格をしているのでしょう。ズケズケと思ったコトを口にし、同時に人情にも厚い部分は異世界のオニ族にも共通しています。
ちなみに、最近ではオニの間でも近代化が進み、普段はトラのパンツ一丁で歩き回ったりはしません。ちゃんとフツーの服を着ていますし、都会で暮らすオニの中にはピッシリとしたスーツを着用する者までいるくらい。
おっと、話がそれてしまいましたね。
ストーリーをオニ祭りに戻しましょう。
意気揚々と入場してきたオスオニどもは、巨大な和太鼓の音に従って、右、左、右、左と力強い足踏みをしながら、ゆっくりと歩いてきます。
何十人というオスオニが一斉に足踏みをしているせいで、大地はまるで地震でも起こっているかのごとく地響きし、これまた何十人といるメスオニどもは地面が揺れるリズムに乗って体を左右に振っています。「今か!今か!」と、“その時”を楽しみに待っているのです。
太鼓のリズムに合わせて、オスオニどもは声を張り上げて歌います。
「ドンドコ!ドンドコ!オ!ト!コ!」「ドンドコ!ドンドコ!オ!ト!コ!」
オスオニの合唱を聞いて、たまらずメスオニたちも立ち上がり、ドンドコドンドコ足を踏みならします。
地面は先ほどよりも、さらに地響きを増し、遠くの森までビリビリと空気が振動しているようです。
オスオニの合唱。
「ドンドコ!ドンドコ!オ!ト!コ!」「ドンドコ!ドンドコ!オ!ト!コ!」
我慢できずに、メスオニも合唱。
「ドンドコ!ドンドコ!オ!ン!ナ!」「ドンドコ!ドンドコ!オ!ン!ナ!」
オスとメスの合唱が野性的なハーモニーを生み出し、ついに全員が叫びます。
「オニ祭りじゃああああああああああああああああああああ!」
この後、通常ならば、男女入り乱れて組んずほぐれつの大乱交パーティーが始めるのですが、今年は勝手が違いました。
なんと、オニどもの熱気につられて、山からハリヤマイノシシの大群が駆け下りてきてしまったのです。
ハリヤマイノシシは、オニの村の近くに生息している生き物で、その名の通り背中が針の山のようにトゲトゲにとんがっています。
普段ならば、美味しい食材として喜ばれるのですが、今夜はみんな別の目的で集まっています。行為を邪魔されたオニたちは、怒髪天を突き、イノシシの大群に襲いかかりました。
先陣を切るのは誰あろう。ラオリェンママです。
「アタシの青春を邪魔しやがって~!馬に蹴られて死んじまえ~~~!」と叫びながら、棍棒を手に先頭のハリヤマイノシシの頭をズコン!
「女なんかに負けるな~!男の意地を見せちゃれ!」と、オスオニどもも、手に手に棍棒やトゲトゲのついた金棒を持って、イノシシの頭をズコン!
「昔っから、オニの一族はカカア天下と決まってんのよ!」と、メスオニどももズコン!
ズコン!ズコン!ズコン!
迫り来るハリヤマイノシシを、次から次へと殴りつけ、ついには1匹残らず退治してしまいました。
その後は、捕らえたばかりのイノシシたちを解体し、ボタン鍋にしてしまいました。
こうして、心ゆくまでボタン鍋を堪能したオニたち。腹がいっぱいにふくれてしまいました。
戦闘欲と食欲を満たされたオニたちは、すっかり性欲を失ってしまい、今年の乱交パーティーは中止に。オニ祭りは平和にお開きとなりましたとさ。
めでたし、めでたし?
*
「人間の3大欲求は、『性欲』『食欲』『戦闘欲』って言うものね」と、シェヘラザード。
「いえいえ、シェヘラザード様。それ、ちょっと違いますよ」と、天使である僕はツッコミを入れる。
「アラ?違ったかしら?」
「そもそも人間じゃなくてオニですし」
「そこのところは似たようなものでしょう。それにしても、ラオリェンママも災難だったわね。せっかくの休暇だったっていうのに」
「ま、美味しいボタン鍋は食べられたし、それはそれで幸せだったのでは?」
「それにしても、オニの世界にも荒っぽい文化があったものね。乱交パーティーだなんて」
「そこの部分は人間世界も同じだったらしいですよ。古来、祭りというのは男女の出会いの場として活用されていたのだとか。昔は、性にも開放的だったそうですし」
「そういえば、私が王様に物語を語って聞かせていた時代にも、そんな文化があったわね…」と、シェヘラザードは遠い目で昔を懐かしんだ。
「さて。今夜も夜が明ける時間となったようです。では、こちらもそろそろお開きにいたしましょう。 次の物語は、また明日の夜に…」
そう言って、僕は今夜の語りを終わらせた。




