~第92夜~「都会のカジノで出会った貴族」
「都会のカジノで出会った貴族」
「さすが吟遊詩人ね。今までの中では、今回のが一番おもしろかったんじゃないの?」と、ラオリェンママは満足げです。
その場にいた他のメンバーたちも、ウンウンとうなずいています。
「さて、と。じゃあ、満を持してアタシの出番ね!」
そう言って、ラオリェンママは話し始めました。
*
これは、まだアタシが若かった時代のお話よ。
知ってる人もいるかも知れないけれど、昔、アタシは人間だったの。それが、神様のイタズラで鬼の娘に生まれ変わった。それはそれは美しい娘だったんだから。
「自分で言うかよ」と、天から、さえない常連客の声が聞こえてきます。
うっさいわね!いいじゃないの!
青春時代ってのは、誰もが美化したがるものなのよ。
それはそれは美しい娘だったアタシは、ある洞窟の奥でほとんど全裸の状態で鎖に縛られていたの。それを近くの街に住む若い男が助けてくれた。
これは、その後のお話よ。
若い男は別の女とくっついちゃったので、仕方なくアタシは街をあとにして旅に出ることにした。いつまでも、あんなへんぴな土地にいる必要ないものね。
アタシも若かったので、大都会を目指したわ。
結果、たどりついたのは、大都会とは言わないまでも、そこそこ大きな都市だった。少なくとも、前にいた街に比べると20~30倍は大きな都市ね。
アタシはカジノで働き始めた。かなり大きな街だったので、そういうモノもあったのよ。金に困らない成金どもが集まって、夜な夜なギャンブルに興じてたわけ。
一方で、街には仕事にあぶれた浮浪者なんかも大勢いたんだけど、金持ちどもからしたら知ったこっちゃないわよね。アタシも、ちゃっかりおこぼれに預かってたし。
若いってのはいいものよ。こっちから声をかけなくても、いくらでもごちそうしてくれるし、服やアクセサリーなんかも買ってくれるんだから。
カジノで働いてる内に、アタシはひとりの男と出会った。どっかの国の貴族だって言ってたわ。ウソかほんとか知りゃしないけど。ま、アタシも若かったし、一応、その話は信じてあげた。どっちにしろ、その部分は本筋に関係ないし。
で、男と女が出会ったら、ヤるコトは1つよね?案の定、そういう関係になって、アタシたちは一緒に暮らし始めたわ。
最初はよかった。甘い。あま~い時が過ごせて。でも、段々と男の態度が変わってきた。
ま、世の男どもというのは大抵そうなんだけど、つき合い始めの頃は女のコトを持ち上げてくれるの。けど、時が経つに従ってぞんざいに扱うようになってくるのよねぇ。まるで、雑巾か何かみたいに。
それでも、情が移っちゃったのよね~
情が移ったら、もうおしまいよ。どこまでもどこまでも、男の言いなり。アタシも男の尽くすタイプでしょ。え?そうは見えないって?
ところがどっこい、ラオリェンちゃんはそういう性格だったの。今でもそうなんだけど、若い頃はもっと従順だった。好いた男にトコトンまで尽くしちゃうタイプ。
ある時、男が酷い流行病にかかっちゃってね。「コロコローリ」とかいったかしら?
当時、世界中で大流行して、何百万人もの命を奪っていったの。その頃は、まだ地球との道もつながってなかったし、ワクチンなんかも存在しなかった。だから、みんな、黒魔術だとか怪しい儀式だかに頼りきりだったの。もちろん、効果なんてなかったわ。今になって思い返せば、バカな話よね~
けど、その頃は必死だったから、カジノで働いて稼いだお金をぜ~んぶ使って、男のために怪しい薬だとか、病気がよくなる儀式だとかをやってもらったの。
結果、男は死んでしまった。
お金のコトはあきらめがついたけど、男の方はあきらめきれなかった。若い頃のアタシは、毎日毎日泣いて暮らしたわ。
けど、女って強いモノよねぇ。ある日、パタリと涙が涸れて、それっきり1滴も出てこなくなっちゃったの。不思議なモノよね。アレだけ執着してた男のコトをキッパリ忘れることができるんだから。
なんていったっけ?「生存本能」?女には生来、そういうのが備わってるのよ。そこんとこいくと、男はダメねぇ。いつまでもいつまでも引きずっちゃって。何十年も1人の女を忘れられない奴もいるって言うじゃない。ま、それはそれでロマンティストでステキだとは思うけど。
いずれにしても、アタシは愛した男のコトをあきらめた。そうして、遺品整理を始めたの。
そしたらね。出てきたのよ。「宝の地図」が。男が本物の貴族だったかどうかは知らないわ。ただ、夢はあるじゃない?だって、宝の地図よ!宝の!
もちろん、アタシはその日限りでカジノはやめて、冒険者になったわ。
途中で別の冒険者たちとパーティーを組むことはあったけど、地図は誰にも見せずに旅を続けた。出会っては別れ、出会っては別れの繰り返しね。
そして、ついに…
*
「おっと。そろそろ夜が明ける時間ですね。ラオリェンママのお話も、もうちょっとだったんですけど。では、この物語の続きは、また明日の晩に…」
そう言って、僕は今夜の語りを終えた。




