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異世界千夜一夜  作者: 大西平洋(ヘイヨー)
~いろいろな小話~
92/1003

~第91夜~「イジワルなお姫様と仮面の道化師」

「イジワルなお姫様と仮面の道化師」


「…と、ワシの話はここまでじゃ」と、看守は言いました。

「え?終わり」

「なんだかあっけないな。続きはどうなったんだよ」と、ラオリェンママと常連客は不満顔です。

「いや~、続きがあるにはあるんじゃが、諸事情で今回はここまでとしておいてくれ。ま、とっておきの話は、とっておきの場で披露するもんじゃろうて」

「まあ、いいわ。なかなかおもしろかったし。次、誰が行く?」と、ラオリェンママが催促します。

「そういうのなら、私にもありますね。なにしろ、世界中を旅しながら物語を収集している身ですから」と、吟遊詩人が言いました。

「じゃあ、お願いしようかしら」

「わかりました。では…」と言って、吟遊詩人は話し始めました。


         *


 むかしむかし、ある国に、イジワルなお姫様が住んでいました。

 お姫様は、人が嫌がるコトをするのが大好きで、自分が仕掛けたイタズラが成功して人々が驚いたり悲しんだりすると、手を叩いて喜ぶのです。

 そんなでしたから、お姫様は、国中の国民から嫌われておりました。

 

 ある時、王宮に道化師がやって来て、いろいろな芸を披露してくれました。

 仮面をかぶった道化師は、何もないところからパッと玉を取り出したり、トランプを使って裏返しになっているカードを当てたりするのです。

 お姫様はどうしても、自分でもその芸がやってみたくなりました。

 そこで、芸が終わったあとに、こっそりと道化師のもとを訪れて頼みます。

「道化師さん、道化師さん。どうか、わたくしにもその技を教えてくださいな。お礼になんでも差し上げますから」

「なんでも?ほんとうですか?」

「ええ、ほんとうよ。約束!約束!」

「わかりました。では、私の持っている数々のテクニックをお教えしましょう」

 こうして、お姫様は何日もかけて道化師から手品の技術を教わり、身につけていきました。


 一通りの技を覚え終わった頃、道化師が言いました。

「さて、これにて私の役目はおしまいです。では、約束のモノをいただきましょう」

「約束?なんのコトかしら?」といって、お姫様はすっとぼけようとします。でも、そうはいきませんでした。なにしろ、道化師は高名な魔女だったからです。

 道化師が仮面を脱ぐと、そこには美しい女性の姿が。

「アッ!」とお姫様は驚きます。

「さて、何をもらおうかしら?そうね。では、あなたには私の跡を継いでもらいましょう」

 そう言うと、魔女はさっきまで自分がかぶっていた仮面をお姫様にかぶせます。

 そうして、魔女は窓からサッと逃げ出すと、どこへやら飛んでいってしまいました。


 さて、困ったのはお姫様です。

「わたくしは、ここよ!姫はここにいます!」と、どんなにお姫様が叫んでも誰も気づきません。だって、目の前に立っているのはただの道化師なのですから。

 王宮ではいなくなったお姫様を探して捜索が始まっていましたが、内心みんな「あんなワガママな女、いなくなってせいせいしたわ!」と思っていました。

 廊下の陰やトイレの隅で、そのようなウワサ話を耳にすると、道化師となったお姫様は心臓がズキリとするような痛みを感じるのでした。

 そうして、ついにお姫様は、城を追い出されます。芸を終えた道化師に用はありません。


 仕方がないので、道化師となったお姫様は、トボトボと歩きいて旅に出ました。

 ただし、食うには困りませんでした。なにしろ、本物の道化師(魔女)に教わった数々の手品がありるのです。

 お姫様は、旅先でいくつもの芸を披露し、人々を喜ばせたり笑わせたりしました。でも、彼女の心はちっともあたたかくなりません。だって、お姫様の喜びは他人の不幸の中にしかないのですから。

 生まれ持った性格というのは、なかなか変えることができません。お姫様は自分でもどうにかしたいと思うのですが、どうしようもありませんでした。


 ところが、このお姫様、ここでめげたりはしません。意外と「肝がすわっている」とでもいうのか、段々と自分の境遇を楽しむようになってきました。

 どうやら、向いていたんでしょうね。生来(せいらい)のひねくれた性格が幸いしたのか、人を困らせる魔法にかけては天下一品!スラスラと覚えることができるのです。

 世の中には「好きこそものの上手なれ」という言葉もございます。人の嫌がる顔を見るのが大好きな人間は、やっぱり人を困らせる魔法が得意だったんですね。


 数年の(のち)、いくつもの黒魔術を身につけたお姫様は、本物の魔女となっていました。そう!かつて、自分をこのような境遇に落としたあの美しき魔女のような!

 そこにあの魔女が現れます。

「どうやら、順調に成長したようね。あなたには才能があると思っていた。『悪の才能』が」

「どういうコト?」と、元お姫様だった新しき魔女はたずねます。

「これが、私が欲しかったモノよ。あの日、約束したでしょ?望みのモノは、なんでもくれるって。私が欲しかったのは、後継者。身につけてきた数々の魔術を受け継いでくれる者」

「え?そんな。じゃあ、全ては計算づくだったってコト?」

 古き魔女はニヤリと笑うと、新しき魔女の手を取りながら言いました。

「さあ、いらっしゃい!いろいろと教えてあげるコトがあるわ。時間は有限なんだから」

 そうして、ふたりの魔女は月の輝く夜空へと飛んで行ったということです。


         *


「さて。今夜もお時間となったようです。それでは、次のお話は、また明日の晩といたしましょう」

 そう言って、天使である僕は、今夜の物語を終わらせた。

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