~第87夜~「妖怪おぼろ車一家」
「妖怪おぼろ車一家」
さて、地球と異世界がつながり合って、移住したのは人間ばかりではありません。
地球と異世界「アルファリス」の間にある道を通って、こっそりと妖怪たちも引っ越ししていました。
異世界へと移り住んだ妖怪の中に「おぼろ車」というのがいます。
昔は、おぼろ車も「牛車」が化けた妖怪でしたが、今や近代化が進み、自動車の妖怪となっています。しかも、1体や2体ではなく、家族総出で移住を果たしたので、さあ大変!
一家の大黒柱である「父さん車」は、高度成長期に日本で量産されていたファミリー向けの国産車でありました。奥さんは、同時期に生産されていた軽自動車。おじいちゃんは、少し前の時代にさかのぼり「オート三輪」です。
子供たちは、もうちょっと先の時代に生まれたので、燃費もよく、生前は安全運転を心がけていました。孫にいたっては、ガソリンと電気のハイブリッドカーです。
さらに時代が進めば、電気自動車や水素エンジン車なんてのも登場してくるかも知れませんね。
おぼろ車一家は妖怪でしたので、当然、妖怪になる前はフツーの自動車でありました。それが、理由あって怨念の塊となったのです。
たとえば、持ち主が交通事故を起こして人をひき殺したり、暴走車として世間を騒がせたり、時にはボケたおじいちゃん運転手が高速道路を逆走したコトなんかもあります。
自動車の運転手が良心的な乗り手で、荒っぽい運転なんてしなければ、妖怪になどならず、素直に成仏していたかも知れないのに…
おぼろ車に限らず、妖怪というのは、この手の理由で魂が宿ることが多いのでした。あるいは逆に、あまりにも大切にされ過ぎて、道具が物を考え始めることもあります。「付喪神」というヤツですね。
壺やら包丁やら着物やら、時には屋敷そのものまで。100年とか1000年とか、長い年月を経て大切にされた道具は、魂が宿ることがあるのです。
いずれにしても、おぼろ車一家は、文明化が進み過ぎた日本から脱出して、異世界へとやって来たのでした。
「ブンブンブブ~ン!」
孫っ子おぼろ車が元気に走り回っています。自然あふれる世界にやって来たのが、それほどうれしかったのでしょう。
「コラ!静かになさい!」と、さっそく母さんおぼろ車に叱られています。
「まあまあ、いいじゃないか、母さん。ワシだって、ひさびさにきれいな空気を吸って気分がいいよ。こっちは排気ガスをまき散らす側だがね。ワッハッハ」と、父さんおぼろ車は、ジョークなのか何なのかよくわからないコトを言っています。
「けど、異世界なんて言っても、都会化が進みつつあるじゃないの。このまま行けば、いずれは日本と同じようになっちゃうんじゃないの?」と、おばあさんおぼろ車は心配そうです。
「そうねぇ。やっぱり、異世界なんかじゃなくて、アフリカ辺りに移住した方が良かったんじゃないかしら」と、母さんおぼろ車。
「まあまあ、いいじゃないか。せっかく、こちらの世界へやって来たんだ。しばらく滞在して、いろいろな土地を見て回れば。異世界と一口に言っても、地域差があるらしいし」と、父さんおぼろ車は間を取り持ちます。
それからというもの、おぼろ車一家は、異世界アルファリスをあちらこちらと旅して回りました。彼らは妖怪とはいえ自動車の一種でしたから、人を乗せて走り回ることもできます。
人間やドワーフやエルフを乗せてはお駄賃をもらい、旅を楽しみます。妖怪なので、もはやガソリンや電力も必要ありません。精神力だけで自走できるのです。
「ワッハッハ!こりゃ楽しいな!こんなコトなら、もっと早く異世界にやって来るべきじゃったわい!」とおじいさんおぼろ車も大喜び。
しかも、おじいさんはオート三輪なので、みんな珍しがって何もしなくても寄ってくるのです。わざわざ人を乗せて運ばなくても、記念撮影などしてお駄賃をもらえるのでした。
おぼろ車一家は「大自然でのんびりと暮らす」という本来の目的も忘れて、異世界ライフを楽しみます。
そんな彼らを見て快く思わない人々もいました。いえ、人ではなく妖怪ですね。
「カッパ」や「からかさ小僧」「ろくろ首」「海坊主」「油すまし」など、地球からやって来た妖怪は他にも大勢いました(なぜかというと、地球側の出入り口である鳥取砂丘は「水木しげる記念館」に近い土地にあったからです)
けれども、他の妖怪たちは滅多に人の前に姿を現したりはしません。それが、昔からの掟だったからです。
「いくら地球と違う世界だからって、アイツら好き勝手やり過ぎじゃあないか?」
「オレッチも、あんな風に人気者になりたいケロ!」
「バカッ!オレたちまで仲間入りしてどうすんだ」
「そうだ!そうだ!昔ながらの掟を守らない奴らには制裁が必要だな。ちょいとおぼろ車一家の奴らをシめてやろうぜ!」
などと、妖怪たちは口々に叫び、おぼろ車一家におしおきをするコトに決定しました。
さて、何やら不穏な空気が漂ってまいりましたが、今夜はこの辺で。
続きは、また明日の晩といたしましょう。




