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異世界千夜一夜  作者: 大西平洋(ヘイヨー)
~いろいろな小話~
86/1003

~第85夜~「目指せ!暗黒大陸(その2)」

 「死にたがりのラ・スースー」は、ウンディーネの息子ラカノン、その親友ドゥップルと一緒に、暗黒大陸を目指します。

 「若者の特権」とでも申しましょうか。年を取ると、とてもこのような冒険はできなくなってしまうものでございます。人というのは守るべきモノが増えれば増えるほど、保守的になってしまうものなのです。

 そうして、最後には何もおもしろいコトができなくなって、物語に登場することもなくなってしまいます。


 それはそれとして、この時の3人は怖いモノなど何もないというように、先へ先へと進み続けました。

 旅の途中で「暗黒大陸?あそこだけはやめておけ。見たところ3人とも健康そうだ。よかったら、この村で一緒に暮らさぬか?ちょうど人でも足りぬところだし」などと誘われても、丁重にお断りしながら先を急ぎます。


 凶悪な魔獣や、自然に生息するマダラグマ、ヨツコブワニといった危険生物と遭遇しても、3人は力を合わせて戦い、その都度敵を退(しりぞ)けました。

 3人の中でも最強の戦闘力を誇っていたのは、なんといってもラ・スースーでした。生来持っていた「闇の魔術」の資質に加えて、母親代わりのセアラ・ヴァレットから伝授された数々の魔法で、並みいる敵を粉砕していきます。

 なにしろ炎や風といった基本魔法を一通り習得し、光の魔法も闇の魔術に匹敵するレベルにまで引き上げられていましたからね。

 それもこれも、将来を見すえて育成し続けてきたセアラ・ヴァレットのおかげでした。ふたりは離れ離れにはなってしまいましたが、ラ・スースーの中には今でもセアラの想いが息づいているのです。

 きっと、今も同じ空の下でセアラは自分の娘と再会することを夢見ていることでしょう。


 ある時、3人は食料に困り、泳ぎの得意なラカノンが、川に潜って魚を捕ってくることになりました。

 ラカノンは、なぜ自分が生まれながらに泳ぐのが得意か知りませんでした。ただ、そんな姿を眺めながら、ドゥップルに嫉妬のような思いが浮かんできます。


(子供の頃からラカノンの奴は身体(からだ)を動かすのが得意だった。それに比べてオレは、努力しなければ何もできない人間だった。努力して努力して、それで、どうにかこうにか奴と同じかそれ以下のコトしかできなかった…)


 ドゥップルは、己の非力さを呪いました。

 ほんとは、努力して成長できるというのは、天が与えた素晴らしい才能だというのに。そういうコトを知らなかったのです。

 それでも、まだふたりで行動している頃はよかった方でした。けれども、ラ・スースーが現れてから微妙に関係が変わっていきます。

 そりゃそうですよね?若いふたりの男の間に、これまた若い女の子がひとりまざってしまったのですから。

 この中で一番の年上は、ラ・スースー。その1つ下にドゥップル。さらに1つ下にラカノンと続いていきます。でも、まあ、ほぼ同い年に近い年齢です。それでも、この頃の1歳差というのは、とてつもなく大きな差に感じられるものなのです。

 この年齢差が余計にドゥップルをいらだたせました。年上のラ・スースーに戦闘力で圧倒的な差をつけられ、年下のラカノンにも身体能力で劣るのですから。


「そういうの関係ないよ。人にはそれぞれ特技があって、得意なジャンルがあって、みんながみんなお互いの欠点を補いながら生きているんだから」と、(さと)してくれる親や教師がいてくれればよかったのでしょう。

 けれども、ドゥップルにはそんな人はいませんでした。幼い頃から孤児院に預けられ、孤児院の人たちもあまり構ってもくれないし、関心も持ってくれませんでしたから。

 そんなでしたから、ドゥップルの心もどこかでゆがんでしまったのでしょう。いつの日か、その心のゆがみは、ドゥップルの心を支配していくようなります。


 ラカノンの方も、微妙な心情になっていきます。

 ラ・スースーに恋をしてしまったのです。いえ、正確に言えば、小さな恋心は孤児院時代から抱き続けていました。それが、数年の時を経て再び出会い、ハッキリとした感情として意識し始めたのです。

 ずっとふたりで一緒に暮らし続けていたドゥップルです。そんなラカノンの想いに気づかないはずはありません。そうなると、もう止まりません。いつの間にか、ドゥップルもラ・スースーのコトを女性として意識するようになっていました。

 何も知らないのはラ・スースーばかり。彼女の関心は「いつ、この人生から解放されるのだろうか?」というコトだけでした。それほどまでに現世に未練はなかったのです。

 ところが、このコトが後に大変な事件を起こすことになります。


         *


「いいわねぇ。青春時代の(あわ)い恋心。私にもそんな時代があったものよ」と、シェヘラザード。

「シェヘラザード様。それが、そんな単純な物語ではないのですよ。そもそも、これって『異世界物語』の1つなんです。ただ単に少年が少女に恋をして、もうひとりの少年が嫉妬する…それで事態は終わったりしません」と、天使である僕は答える。

「じゃあ、どうなるの?」

「それは、明日のお楽しみ♪物語の続きをお待ちください」

「ええ~!いいとこで終わっちゃうのね…」

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