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異世界千夜一夜  作者: 大西平洋(ヘイヨー)
~いろいろな小話~
84/1003

~第83夜~「イナゴの王 vs ハエの王(その2)」

「確か、昨日はハエの王ベルゼブブに助けを求めて交渉するところまでだったわね」と、シェヘラザード。

「はい。左様にございます。さすがは悪魔としても名の知れたベルゼブブ。そう簡単に力を貸してくれるはずもありません。それでは、続きがどうなったのかお聞かせいたしましょう」と、僕は物語の続きを語り始めた。


         *


「人の魂?それが、高貴なるモノ?」と、騎士ソイル・テルミヌスは尋ねました。

「そうじゃ。魂こそがこの世で最も高貴であり、甘美なる存在。古来、人の魂を求めて、どれほどの悪魔が人間にひざまずいてまで契約を交わしたと思う?」

 ベルゼブブの言葉に、ソイルはアゴに手をやり考えました。

「確かに。言われてみれば、そうかも知れぬ。だが、魂と言っても誰の魂だ?まさか、我が女王ではあるまいな?」

「いやいや、そんなモノに興味はない。どこぞの王国を支配しておる女なんぞよりも、よっぽど興味をそそる者がおる」

 ハエの王ベルゼブブは、ニヤリと不敵な笑いを浮かべながら、そう答えました。

「はて?女王よりも高貴な魂?とんと思い浮かばんが…」


 しばらくの間、沈黙を楽しむように待ち続けていたベルゼブブでありましたが、ついに一言、こう言い放ちました。

「それは、お前さんじゃよ」

「私!?」と、騎士ソイルは驚きの声を上げます。

「そうじゃ。我が部下になれと言っておるのじゃ。ソイル・テルミヌスよ」

「そ、そんな…この命は、女王陛下に捧げた命。いや、しかし…確かに、それが一番しっくりくる。宝石や金や農作物を提供せずとも、私の命1つで済むのなら…」

「そうじゃろう。そうじゃろう。ま、今すぐにとは言わん。我が城にて一晩滞在し、ゆっくりと考えるがよい」

 ベルゼブブの提案に騎士ソイルは即座に返答します。

「いや、それには及ばん。よかろう!悪魔ベルゼブブよ。おぬしの配下となろう!我が命は今から貴様のモノだ!この命好きに使うがよい!」

 ベルゼブブは、その言葉を聞いて、ますますソイルのコトを気に入りました。


         *


 こうして、ベルゼブブは約束通り、異世界アルファリスへとおもむき、アバドンと対決することになりました。

 「ハエの王」と「イナゴの王」の激突です!


 イナゴの王アバドンは、無数の魔物たちを従えながら、ハエの王ベルゼブブに向かって言い放ちます。

「全ての虫を()べる王ともあろう者が、落ちぶれたものよのう。たかが人間風情に味方するとは」

 虫の大群を携えたベルゼブブも負けじと答えます。

「そういうお前さんこそ、どうした?指輪の力に屈し、人間の下僕(げぼく)に成り下がっているではないか」

 アバドンは涼しい顔をしたまま返します。

「フム。おぬしは知らんかったかな?ソロモンの指輪の悪魔となれば、いろいろと特典があってな。特に経験値はたんまり入るのよ。いかに強大な力を持とうとも、研鑽(けんさん)(おこた)る者はいずれ落ちぶれ消えてゆく。何万年生きようとも、なお成長を忘れぬこの精神、褒めてはくれまいか?」

「成長なぁ。では、お前さんを倒して、その経験値とやらをたっぷりといただくとしよう」

 答えるや(いな)や、ハエの王は黒雲を呼び寄せて、イナゴの王の頭上に向けて(いかずち)を降り注がせました。


 雷を皮切りに、戦闘の幕が切っておろされます。

 アバドン配下の魔物のたちと、ベルゼブブの引き連れた虫の軍団が全面対決!

 もちろん、それぞれがイナゴとハエの大群も呼び寄せます。


 戦いは、ルビアルス連邦の境界線を舞台として、7日7晩続きました。

 そして、ついにベルゼブブ軍はアバドン軍を討ち破ります!空を覆い尽くすほどいたイナゴの大群も、ハエの群れに喰い尽くされ跡形(あとかた)もなくいなくなってしまいました。

「グググ!この恨み、次によみがえる時に必ず晴らさせてもらう!」

 アバドンは悔しさにゆがんだ顔をしながら捨てゼリフを吐き、消えていきました。これでしばらくの間アバドンは使えそうにありません。復活までは数十年~数百年はかかるでしょう。魔王トマレットが生きている内によみがえることはなさそうです。

「さて。これにて契約完了というわけじゃな」

 ベルゼブブは、一言そう言い残すと、悠々と自分の世界へと帰っていきました。


 その後、騎士ソイル・テルミヌスは英雄としてたたえられ、アルファリスには英雄の像が建てられたそうです。

 そうして、ソイルはベルゼブブの配下で立派に働き続けたのだとか…


         *


「なんだか悲しいお話ね。騎士が悪魔の配下になるだなんて」と、シェヘラザード。

「それこそが『騎士道精神』というものでございましょう。己の命を犠牲にしてまで民を守る。立派な人物じゃございませんか」と、僕は答える。

「そういうものかしらね?ほんとに立派な人物なら、自分の人生も大切にして、なおかつ人々の幸せも守りそうなものだけど」

「はてさて、どうでしょうね?現実の世界というのは、非情なもの。常に理想通りとはまいりません」

 その言葉を聞いても、シェヘラザードはまだ不満そう。

「さて、今夜もそろそろ時間となりました。それでは、次の物語は、また明日の晩にいたしましょう」

 そういって、僕は今夜の話を終わらせた。

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